耶馬英彦

グランツーリスモの耶馬英彦のレビュー・感想・評価

グランツーリスモ(2023年製作の映画)
4.0
 日本でもF1ブームがあった。アイルトン・セナ、アラン・プロスト、ミハエル・シューマッハ、ナイジェル・マンセルなどの有名なレーサーが、マクラーレン、フェラーリ、ウィリアムズ、ベネトンなどのマシンに乗って、首位争いをしていた頃だ。日本のテレビも実況中継をしていた。中嶋悟、片山右京、鈴木亜久里といった日本のレーサーも参加して、それなりに盛り上がっていた。
 しかしイモラ・サーキットの事故でセナが死んでからは、ブームは急速に下火になった気がする。その少し前には、バブルがはじけて日本が急激に貧乏になり、自動車を買って運転することに夢を持てなくなってしまった。自動車への興味が失せれば、自動車競争への興味も自動的に失せる。
 加えて、F1に絶大な影響力を持つフェラーリが、オフィシャルに圧力をかけて、レギュレーションを変更させたことも大きい。フェラーリが勝つようにルールを変更したのだ。多くのF1ファンは、アンフェアなその方向性にがっかりしてしまった。F1離れはフェラーリにも責任の一端がある。

 ということで、日本ではレースというとギャンブルの対象にしか興味が示されなくなり、公には賭けの対象ではない自動車競争は、現在は話題にも登らなくなっている。ただ、自動車を運転するのが好きな人は、まだ結構多いと思う。今年の7月には、日本で会員制のドライビングクラブが開業した。入会金400万円、年会費100万円といった価格だったと思う。庶民には手が出せない金額だが、それだけの金を払っても運転を楽しみたい層がいるということだ。
 一方、Eスポーツのひとつとして、ドライビングシミュレーターがある。プレステの特別版で、ゲーマーはゲーム用の椅子に座って、実際のレーサーが使うのと同じようなステアリングを使う。やったことはないが、結構面白そうだ。

 自動車競争が下火でも、映画は想像力を刺激するものだから、まったく影響はない。宇宙飛行士にはなれない人がほとんどだが、宇宙飛行士の映画は楽しむことができる。やったことがなくても、ドライビングシミュレーターの名手が実際のレースで活躍するのはワクワクする展開だ。なんだか主人公の親になったみたいな気分で、未知の領域を突き進む息子をハラハラしながら見守る。エモーショナルな時間を過ごすことができた。エンタテインメントとしては秀逸。
耶馬英彦

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