幽斎

ふたりのマエストロの幽斎のレビュー・感想・評価

ふたりのマエストロ(2022年製作の映画)
4.0
恒例のシリーズ時系列
2011年 4.4 Hearat Shulayim オリジナル、イスラエル映画
2022年 4.0 Maestro(s) 本作、リメイク

レビュー済「コーダ あいのうた」プロデューサーPhilippe Rousseletが、カンヌ映画祭脚本賞をフランス映画としてリメイクしたヒューマンドラマ。アップリンク京都で鑑賞。

世界最高峰のスカラ座、華やかなクラシック界を彩る音楽も魅力的。Wolfgang Amadeus Mozart「フィガロの結婚 序曲」。Ludwig van Beethoven「交響曲第9番」。私の好きなSergey Rachmaninov「ヴォカリーズ」、Antonín Dvořák「母が教えてくれた歌」。他にもJohannes Brahms、Franz Schubert等、国際色もリッチテイスト。

フランス原題はズバリ「La Scala」スカラ座。開館は1778年、イタリアのミラノに在る歌劇場で、初代宮廷劇場以来の伝統と格式を誇るイタリアオペラの最高峰。英語原題は「Maestro(s)」マエストロはイタリア語で名指揮者。最近は料理や映画でも形容されるが、本来の意味は指揮者の名に冠する敬称。私はクラッシックはロシア派だが、クラシックが好きな方にピンズドは勿論、親子関係に問題を抱える方にも見て頂きたい。

オリジナルのイスラエル版と違い、ジャケ写でネタバレするのはドウかと思うが、劇場の予告編もほゞネタバレ、文字通りの予定調和。本作を観た後でイスラエル版も観たが、共に大学教授の父親と息子。父が学会で最も権威ある賞を受賞するが、受賞は息子で在る事が判明。本作もプロットは一本道ですが、フランス映画らしく男と女の価値観の違いを年代別に浮き彫りにする割に、毎度お馴染みだが深掘りはしない。

音響効果の出来は良く、クライマックスのクレッシェンドもマーベラス、だが、音楽主体の割には名曲をしっかり聴けるシークエンスが少なく、ドラマパートとのアンバランスも感じた。88分と尺は短い方だが、終盤は端折り過ぎて中折れ感も否めない。

フランソワが既に人生のピークを過ぎた感じ、対立も曖昧模糊でオファーの連絡が来た時から、間違ってる感もクリアだが、ソコは観客にスルーを促す。スルーと言えばドニとフランソワ以外は過去の背景も説明しない謎仕様。ヴィルジニの聴覚障害も設定だけで、華麗にスルー。Bruno Chiche監督は、現役の俳優でも有るが、ソリッドなイスラエル映画を華やかにアップデート出来ず、プロットも散漫な点が観客にも透けて見えた。

フランス映画はインテリ振った詩的な表現がお得意、台詞に台詞を重ねるスタイリングはフランス料理と同じくクドい。「イタリアン」と「フレンチ」の違いは、イタリア料理は食材の味を重視、郷土色の強い料理を守り続ける。フランス料理は食材にアレンジを加えて、ソースで勝負。私は京都人なのでイタリアン派だが、フランス映画は素材を活かすより自分達の技法に酔う。落語のオチの様な結末に共感するかで評価も割れるだろう。

音楽業界に詳しい、京都市立芸術大学卒の友人に依れば「Victoires de La Musique」ヴィクトワール賞は、実在するフランス文化省主催の式典。分かり易く言えばフランスのグラミー賞、舞台劇のニュイ・デ・モリエール賞、フランスのアカデミー賞のセザール賞と併せて三大フランス文化賞。日本のレコード大賞は大手への忖度ばかり(笑)。

本作を鑑賞したのは2023年9月、レビューの校正をする最中に小澤征爾さんの訃報を知った。本作でも台詞と映像で登場するが、ウィーン国立歌劇場音楽監督を務めた彼は、ベルリン、フィルハーモニー管弦楽団名誉団員。ウィーン、フィルハーモニー管弦楽団名誉団員等を歴任。本作の指揮も緻密なドニ、感性のフランソワと違う構図で、指揮者で楽曲の味付けは様変わりする。小澤征爾さんの凄さとは、物語の背景を解く表現力、楽曲の人生を語る洞察力が素晴らしく、音の情景をイメージして感情が揺さ振られるから、私達は音楽を聴く。曲にはある人の人生も投影される、だから感動するのだ。
www.youtube.com/watch?v=vs-ILP1erHw&ab

主人公の父子が2人でタクトを振るう姿から、観客も学ぶ事が大いに有るのだと思う。
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