クロスケ

瞳をとじてのクロスケのネタバレレビュー・内容・結末

瞳をとじて(2023年製作の映画)
4.2

このレビューはネタバレを含みます

エリセの映画に携帯電話の電子的な着信音が聞こえてきたり、Macのモニターが置かれたモダンなオフィスが登場することに、何だか妙に感動します。
あのエリセが、紛れもない現在にカメラを向け、それを我々は今目にしているのだという事実に、少々狼狽えてしまったと言ってもいいかもしれません。

しかし、31年ぶりの長編ということで、観客にむけたエリセなりのサービスなのでしょうか、今までの集大成的な瞬間も随所に見られました。
アナ・トレントの再登場がその象徴的なトピックですが、彼女がフリオと再会するシーンでは「ソイ、アナ。(私はアナよ。)」と『ミツバチのささやき』のラストシーンで呟いた台詞を再び響かせます。
仮にアナを主人公として観た場合、父親の失踪という筋書きは『エル・スール』から何かを受け継いでいますし、ミゲルとフリオが若かりし頃の古い写真を手がかりに、一緒に歌うあたりは『マルメロの陽光』のアントニオとエンリケを思わせます。

クライマックスでは、閉鎖された映画館にフィルムの缶詰がトラックで運ばれ、僅かな招待客の前で劇中映画『別れのまなざし』が上映されます。
よもや、スクリーンの仄かな光に照らされるアナの顔を、50年の時を経て、再び目にする日が来るなんて!と感慨にふけっていた私は不意打ちを喰らわされることになります。
50年前の幼いアナは、一心にスクリーンばかりを見つめていましたが、年嵩の女性となったアナはスクリーンに向けていた眼差しを、ふと隣に座る父フリオに向けるのです。そのフリオ自身が今度はかつてのアナのように、口を半開きにしてスクリーンに見入っています。彼が見つめるスクリーンの中では、俳優としてのフリオ自身がカメラのレンズ(映画を観る登場人物たち=私たち観客)をじっと覗き込んでいます。そして、その視線を受け止めたフリオは静かに目を閉じる…。

暗がりに浮かび上がる登場人物たちの蒼白い顔が素晴らしい。その眼差しのひたむきさに思わず、涙がこぼれました。

今後、新作の発表があるのでしょうか。年齢的にもこれが最後となっても不思議ではないし、意外とあっさり撮ってくれそうな気がしないでもない。そんな物思いに耽りつつ、エンドロールを茫然と見つめるのでした。
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