ぐっない

あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。のぐっないのネタバレレビュー・内容・結末

2.5

このレビューはネタバレを含みます

久しぶりにこんなに中身の無い映画を観た。
お父さんが幼い頃人助けをして亡くなってしまって、お母さんと貧しい暮らしをしてる百合ちゃん。大学進学を諦め、就職すると言い、母親と喧嘩して飛び出し、気がついたら第二次世界大戦終戦間近にタイムスリップ。特攻隊員の彰と出会い、定食屋の鶴さんの家で暮らすんだけど、百合、空っぽすぎる。ずうっとビクビクしていると思ったら、タイムスリップした現状をすんなり受け入れて暮らすし、突然特攻隊員たちに「あなた達は敵艦に突っ込んで死ぬんですよね?」とか「戦争なんてなんの意味があるの!」とか言い出す。彰が砂糖水をかけたかき氷を食べさせてくれて、「メロンとか、いちごとかないんだ」って言う。きみ、火垂るの墓とか観たことないの?節子があんなにドロップ大切にして、栄養失調で衰弱して、ドロップなくなって、おはじき舐めてるの、観たことないの?あの時代、それだけ甘いものや砂糖は貴重だったんだぞ、それをいちばん実感してるはずなのに、メロンとかいちごないんだ?ふざけんなよ。
挙句、特攻前に逃げ出そうとした隊員を叱る別隊員に、「生き恥なんて言わないで!生きたいって思うことの何が悪いの!」って言うの、やばすぎる。そんなこと、特攻隊員たちが今まで何十回、何百回って自問自答してきたことだろ。そして日本が負けたら家族もみんな何されるか分からないんだ、と言う彰に対して、「でも日本は負けるの!意味なんてないの!」って言う。うそでしょ。
なぜ戦争するのかなんて誰も教えてくれず、人を殺すことを教わり、アメリカ兵を鬼畜米兵と教えられ、戦争に負けたらアメリカ兵たちはとても残酷なことをしてくるんだ、家族を殺され、女はレイプされるんたぞ、日本は植民地にされるかもしれない、だから一億玉砕だと言われ、彼らには戦争に勝つことしかなかったのに、だからみんな、志願してまで特攻隊員になったのに、そういう人たちに負けるの!!って言えるの、どうなってんの。
なんで戦争なんてするのよ!って言うんだったら、市井の人に言うな、国に言え、世界に言えよ、腹立つなあ。その時代に生きなきゃわかんないこと、いっぱいあるだろ。その時代に生きた人を現代の私たちが責められるわけないだろ。しかもお前は、タイムスリップして実際に生きてんだろ、嘘でもそんな言葉出てくるはずないだろ。戦争に批判的な態度、特攻隊を美化しない姿勢、素晴らしいと思うよ。でもぜんぜん、この映画は真摯に考えてなかった。
特攻隊員の人生も一切語られない。彼らはただ、命を捨てる特攻隊員である必要しかない。生きてない。なんで特攻隊員になったのか、彰でさえ語られない。毎日なんの訓練をしてるのかも分からない。食堂と、お花畑と、道端しか出てこなくて、予算の問題が目に見える。戦争の悲惨さも全く伝わってこない。唯一あった空襲のシーン、街が焼かれたのに、次のシーンでは綺麗な食堂が出てきて、意味がわからない。終戦間近、どれだけ貧しく、悲惨だったか。なのにみんな綺麗な服を着て飢えてもいなさそうで。
いいよ。悲惨さを描かなくても、予算がなくても。百合と彰の悲しい恋愛、したかったとしてもいいよ。でもさあだったらせめて、百合と彰に人生を与えてくれよ。彰、死ぬんだぞ。いまから何百人、何千人って殺しに、飛行機乗って突っ込んで死ぬんだぞ。なのになんであんなに何も無いんだよ。百合、彰が飛び立って、現代に戻ってきて、普通に笑顔で学校行くの、やばすぎるだろ。ていうか戦時中にタイムスリップしたならせめてもっとなんか有意義な事しろよ。負けるの!!じゃないんだよ、せめて広島と長崎に住む人々に逃げてって言いにいけよ。鶴さんたちにあと何日生き延びてって伝えろよ。もっとなんか、できることあっただろ。百合、成績いいんでしょ、勉強してるんでしょ、だったらそれくらい分かるよね?お前が現代に戻ってお母さんたちと仲良くしてる間も、あの人たちは、苦しんでんだぞ。これから原爆落とされるんだぞ。あの女の子とか、鶴さんとか、どうなったか気になんないのかよ。
遺書、あるんだろうなと思ったら遺書が読まれて、百合の花、あるんだろうなと思ったらそうで、教師になるって言うんだろうなって思ったら「私、教師になる!」。
戦争を描くなら、特攻隊を描くなら、彼らに生きることを説くなら、もうちょっと考えてやれよ。お前らのマスターベーションのために描かれた彼らの気持ちを考えてやれよ。彰たちは、お前らに勝手に生み出され、勝手に殺されるんだぞ。物語を作るってことの責任の重さ、分かってんのか。ふざけんなよ。百合だってあんなに中身の無い女の子にされて、可哀想だよ。
この映画にはなんの思想も、意義も、中身もない。ただ、特攻隊員との悲しい恋愛したかっただけ。それで生きてることってすごいんだー!とか、大切な人、大切にしなきゃー!とか、したいだけ。それだけ。
この映画によって戦争はひどい!とか、命大切にしなきゃ!とか思う人いるのかもしれない、だったらこの映画の利点はそれだけ。
悲しい映画だった。久しぶりに、こんなに嫌な気持ちになった。
ぐっない

ぐっない