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人生に詰んだ元アイドルは、赤の他人のおっさんと住む選択をしたのnetfilmsのレビュー・感想・評価

3.6
 率直に言ってタイトルが長い。長過ぎて覚えられない。一応便宜的な略称として「詰んドル」と呼ばれているらしいが、それならば最初から「詰んドル」で良い。元アイドルの安希子(深川麻衣)は、幸せで充実した人生を歩んでいると自分に言い聞かせていたが、ある日勤め先に向かおうとしていたところ、駅で突然足が動かなくなってしまう。私はいつも言っているが会社とは逆方向の列車に間違えて乗ったり、目的地の近くで少し休憩が必要だからと急に公園のベンチに腰を掛けたらかなりの危険信号だと思った方が良い。現代人は自分自身の心の声を聞いていないし、気にも留めていないケースが多いが、一度病んだメンタルはそう簡単に回復しない。案の定、彼女もメンタルが崩壊し退職する他ない。その瞬間収入が途絶え、仕事も恋人もない上に残高は10万円しかなく、いきなり暗い現実がのしかかってくる。ハローワークに行くとか涙ぐましい転職行為とかは巧妙に省かれていたが、友人からの勧めで、都内の一軒家で一人暮らしをする56歳のサラリーマン、ササポン(井浦新)と同居することになる。

 奇しくも塩田明彦の『春画先生』と同じ並びなのだが、志は違う。メンヘラ拗らせおじさんとメンヘラ拗らせ女子が「春画」で出会ってしまう『春画先生』に対してこちらは「詰んドル」がおっさんの家に居候しながら、自分探しの旅を始める。旅と言えば聞こえは良いが、10万円しかないのだからただひたすらメイクマネーするしかない。どちらかと言えば『百万円と苦虫女』的な漠然と100万円を貯めるまでの過程を映画はぼんやりと描写しただけに過ぎず、今を生きる現代女子の生々しい生態と逆襲こそが観たかったのだが、代父のようなササポンの癒しにやられてしまった側面は否めない。というか同居を求められた段階で井浦新が現れたらヒャッハーで、実際はシェアハウスならぬ都内の一軒家二人同居を求められた時点で、相手をまともな人間だと思ってはいけない。何かが解決したかと問われれば判然とせず、ササポンとの間に何か同士のような特別な感情が生まれたと言えばそうでもない掘り下げ方はいたって普通の映画ながら、これも現代日本のリアルな縮図のかもしれない。しかしあの赤いスポーツカーの写真と別れの歌のピアノにむしろササポン側の底知れぬ闇を見た。むしろそっち側に興味をそそられた。
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