にゃーめん

哀れなるものたちのにゃーめんのレビュー・感想・評価

哀れなるものたち(2023年製作の映画)
4.0
「私は自分の新しい人生とクリトリスを守る」

主演のエマ・ストーンが製作に入り、文字通り"丸裸"になり、作品に献身したからこそ産まれた傑作。

主人公のベラが5人の男達との関わりを経て、精神的に成熟していく過程を描いた4部構成。行って帰って来るシンプルな話。

序盤のロンドンのパートは、モノクロかつ広角レンズでの撮影で、天才外科医ゴッド(ウィレム・デフォー)に胎児の脳を移植された主人公ベラが研究対象として、"観察される対象"であるという所から始まり、同じように研究のため生み出された珍妙な生き物達(鳥犬⁈)に囲まれ、痴人のような振る舞いをするベラ。

ベラを蘇生した父親がわりのゴッドは、外の世界は、危険で恐ろしい場所だと説き、安全で快適な家からベラを絶対に外に出そうとはしない。

自分も、宗教2世として世間との関わりを一切禁じられ、外の世界を知らず抑圧されて育ったため、ベラの境遇と重ねてしまった。

外に出たいと駄々を捏ね、暴れるベラを演じるエマ・ストーンの実年齢は35歳(日本公開当時)なのに、まるでイヤイヤ期の幼児を見ているかのような芝居にのめり込んだ。

ゴッドの庇護から離れ、放蕩者の弁護士と共に外の世界に旅立つリスボンのパートは、絵画のように緻密に作り込まれた街並みやホテル内の美術に心踊る。

私自身、閉鎖的で何も無いモノクロ風景のド田舎から東京に出て来た時、東京がリスボンのように何を見ても鮮やかで華やかに見えた時の事を思い出し、目頭が熱くなった。

この時点のベラの知能は幼児並みだが、身体はすでに大人なので、性的衝動が知性より先に発達しており、弁護士のダンカン(マーク・ラファロ)とのセックス漬けの日々で、世間を何も知らず性欲の捌け口にされている事を理解していないベラ。

「都会に出て来たばかりで、右も左も分からない田舎娘は騙しやすい」と、猥談していた男性上司を思い出し怒りが込み上げてくる。

リスボンからパリ行きの船で出会ったハリー(ジェロッド・カーマイケル)と老婦人(ハンナ・シグラ)が、「自分を幸せにする方法」は性愛だけではなく、知性を高める事であると教えられるベラがスポンジのようにグイグイ教養を身につけて行き、ダンカンを言い負かす展開は胸熱。

"知性が低くすぐに股を開く女"であったベラが、知性を身につけたことで、可愛げのない事を言い出しコントロール出来なくなり頭を抱え「ウワー!」と叫ぶダンカンのなんと滑稽なことか。
いいぞもっとやれ!とベラを応援する気持ちで見守った。

ベラがダンカンと離れ、己の体で財力と知力を得て、1人の自立した女性として、あらゆる方法でコントロールしようとしてくる男性達に立ち向い、論破していく様にこんなにも鼓舞されこんなにもエンパワメントされるとは。

自分が今まで出会って来た男性達とベラが出会った男性達を重ね、自分も散々男性にコントロールされてきたし、男性をコントロールしようとして来たかもしれない…と思い返し、自省するきっかけにもなる作品だった。

「女性の身体は誰のものでもなく自分のもので、主体性をもって人生を選び、掴み取っていくもの。」という主題を、ヨルゴス監督が仕立てるとこんな形になるとは思いもよらなかった。

補足情報:
日本語字幕は安定の松浦美奈さん。
「熱烈ジャンプ」の翻訳には笑ってしまった。
(Wikipediaによると最初に手がけたのは洋画のポルノ映画の字幕だそうなので、この手の作品もお手のものだったのかも⁈)
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