三樹夫

哀れなるものたちの三樹夫のレビュー・感想・評価

哀れなるものたち(2023年製作の映画)
3.8
『フランケンシュタイン』の女性版。子供を身ごもっていた女性が橋から身投げする。ウィレム・デフォーが死体を拾い、胎児の脳みそを女性に移植して蘇生させたところから映画がスタート。何この設定?というのと、途中まで何の話なんだろというので映画が進んでいく。主人公は最初子供の状態から始まるが、外の世界へ出ていろいろ経験し本も読み知識も得ることで成長していき目覚め、フェミニズム理想主義者となる。
『フランケンシュタイン』の作者の伝記映画の『メアリーの総て』と同じく基本的に出てくる男がクズ男ばかり。ベラと駆け落ち同然で外に連れ出すおっさんはこいつクズ男なんだろうなと思っていたら、どんどんクズ男になっていく。自分は好き勝手に多数とセックスしてるくせに経験人数の多い女性に売女と言うタイプの典型的なクズ男で、明らかにベラが自分より頭が良くなるのが癪にさわり出す。このおっさんで既にわりかし映画のクズ男度総量は多いのだが、出てきた瞬間にクズ男と分かる支配欲丸出しのゴミ野郎が出てきて、マジでこいつ許せねぇと思っていたらとんでもない復讐が起こり、まあまあ引かせにくるあたりがヨルゴス・ランティモスらしいなと思う。
ヨルゴス・ランティモスらしい笑えるのか笑えないのかのラインをついてくるオフビートなコメディも健在で、娼館で次々変な客が出てくる。『女王陛下のお気に入り』の変態貴族の戯れシーンを思い出す。カニみたいなおっさんはあんなの笑うわ。ウィレム・デフォーのピッコロ大魔王かっていうような口からシャボン玉の謎の癖も回数を重ねられると笑えてくる。

ヨルゴス・ランティモスは何これとなりながらも、中核の部分はどういうことについての映画か掴みやすいし、コメディをやっているのも明確だしで、結構分かりやすい監督のように思える。
死体をグシャグシャと刺すシーンのは笑えるのか笑えないのかのラインをつくものだが、コメディをやっていることは明白であるし、主人公が目覚めるきっかけの階級社会のメタファーももの凄い分かりやすい。下に降りる階段が途中からないのは階層の固定というか、下に降りる階段がないのはつまり上に上がる階段がないというわけで、下から上の階級に上がることの出来ない階級格差社会を上下を使って表現するという結構よく使われる方法を採っている。
映画を重ねるごとにどんどん魚眼レンズ度が上がっていっているが、次は魚が主役の映画でも撮るのか。
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