ニャントラ

哀れなるものたちのニャントラのネタバレレビュー・内容・結末

哀れなるものたち(2023年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

・活きの良い水死体(妊婦)を拾って胎児の脳を大人の死体に移植するという話。ぶっ飛んだ設定だけど話は面白かった。最初は幼児……というか善悪の判断が全くつかない状態だったのがみるみるうちに成長していき、最後は(頭脳的に)その辺の大人よりも立派に成長していて素晴らしかった。発想がサイコ気味なのは玉に瑕だけど……(ゴッドの影響なのか、社会の中で成長しなかったことによる倫理観の欠如なのか)。
・主人公のベラは自分に脳移植をした医学教授?のゴッドのもとで暮らすが、色々あり男性と旅に出ることに。この男性は完全にベラを弄ぼうとして連れ出したわけだけど、全然思うように支配されないベラに却って執心するようになるのが面白かったし、振り回されることに慣れていないのかどんどんボロボロになっていくのが、なんというか"支配する側の打たれ弱さ"だなと思って興味深く、痛快だった。
・ベラは社会の中で育ってこなかったからか"道徳"の概念がまるでなく、そのことで色んな人を困らせたり戸惑わせたりしてたけど、「社会の中で生きないとどうなるのか」という生育実験を見ているようで興味深かった。すっかり成長したように見えても実際には倫理観や知識に偏りが生じているのもリアル。マーサを海に落とすのが痛快だと笑って見せたり、たくさんの赤子の死体を見てショックを受けたり。マーサやハリーのようにありのままを受け止めてくれる人もいて人間界の懐の深さ・面白さを感じた。ベラは金をぶん取ろうとしている船員の悪意にも気づけなかったわけだけど、逆に我々はどういう成長過程で「人を疑うこと」を獲得したのか?と不思議にも思った。人間は脳みそデカいだけあって成長段階の幅が広い。
・赤子の死体を見た流れで、ハリーに「あなたは人間界に傷ついた少年なのね」みたいなこと言ってるシーンが良かった。どんどん知識を得ているのに、本当に大事なことは何も知らぬままキラキラと輝いていたベラが、初めて絶望するシーンだったように思うけど。最近信じられないくらい理不尽な悲しい出来事がたくさんあって、わたしたちの人生ってなんなんだろう?みたいな虚しい気持ちになることも多かったけど、「私たちの人生には理不尽な痛みもつきもの」ってことを理解してからが本番なのかもなと思ったりもした。
・前後するけど、性の目覚めのシーン、「なんでみんなこれをやらないのかしら!?」でめっちゃ笑った。誰にでも覚えがあるんじゃないだろうか。
・アートでアングラな雰囲気の割に全体的に喜劇的で面白かったな。将軍は絵に描いたような嫌な奴だったのでラストは痛快っちゃ痛快だったけど、赤子の死体には涙を流すけど嫌な奴をヤギに変える(?)のはOKという倫理観の偏りがやはり出ているように感じて、面白くもあり恐ろしくもあった。まあでも将軍はヤギになっていた方が世のためのような気もする(戦争家としては名将だったのかもしれないけど)。なんとなくハッピーエンドで終わったけど、最後あの場にいたみんなも「哀れなるものたち」なのかなあ。
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