みん

哀れなるものたちのみんのネタバレレビュー・内容・結末

哀れなるものたち(2023年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

作品のクオリティはとてつも無く高いし面白かったんだけどノットフォーミーだった

苦しかった。前半は共感性羞恥地獄。
主人公が世間から奇異の目で見られるのでは、辛い思いをするのではと怯えながら見ていたんだけど、想像より遥かに世界は主人公の味方であり、主人公は世界を味方に出来るだけの魅力と能力があった。
マーサの登場によってそれがはっきりする。そこからはこの作品をどう観るべきかがなんと無くわかって、ファンタジーとして楽しめた。

「他と違う」ことで侮蔑の対象となるかと思いきや、その「違い」は彼女を魅力的に見せる。世界に埋没しないその特性、プラスして恵まれた容姿、加えて性に奔放という男性にとっての都合の良さ。それら全ての合わせ技で彼女は世界を冒険するのだけれど、その真っ直ぐな瞳が羨ましい。背筋を伸ばして歩けることが羨ましい。どうしたって現実の自分と比べてしまった。



登場人物が皆魅力的。特にマーサが好き。自分も世界に埋没できない側の人間なのだけれど、マーサのような人と出会って救われた経験がある事に気づいた

ゴッドのベラを見る目が優しい。ベラが初めて外に出て、木の葉の海に倒れるシーン。側から見れば頭のおかしい人にしか見えないのに、そんなベラを見るゴッドとマックスの目が愛と慈しみに溢れていて、世界があまりにも綺麗で泣いてしまった。

セックスワークイズワークの考えに自分はどちらかと言うと賛成寄り。売女め、と罵られ「私は自分で稼いでいる」と言い返す力強さが好き。(けれどここにモヤモヤする人は多いと思う)

ダンカンが流石に可哀想過ぎた。激しく怒るダンカンと冷静さとすベラのシーン、激昂してるダンカンの方が正しい事言ってて笑ってしまった。ASDの見る世界。自業自得とは言え終盤のダンカンは完全にカサンドラ症候群で見ていて心が痛かった。

結婚式でのゴッドの喜ぶ顔が綺麗で可愛くて泣いてしまった。と思ったら次の瞬間にはぶち壊されてて情緒も何も無くて笑った。感動させようと思えばいくらでもさせられるシーンで遠慮なくぶち壊していく感じは「いやこの映画の主題はそこじゃないから」と清々しくすらある。

前の夫についていくのは「そりゃないだろ」と思いつつも、誰に命令されるでも無く自分の意思で選択をする強さの表れであり、この映画の大切な主題。自分で選択すること。自分の目で見る事。与えられるのではなく勝ち取りに行くこと。前の自分(母)の物語を聞き、「これは私の物語ではない」と切り捨て、ベラとしての物語を一貫するその姿勢は美しい。永遠に待たされているマックスが不憫なんだけれど、これでもし仮にマックスが「もう無理だ」と戻ってきたベラを拒否したとしたら、彼女は(納得できるまで話し合った上で)それを受け入れるんだろうな。そうであって欲しい。そこにはマックスの物語があるのだから。

自分のしたいことを最優先にする姿勢は格好いいんだけれど、周囲の人間がとんでもなく振り回されていて見ていて苦しい。けれどそもそもベラの誕生が「周囲の人間がベラを振り回した結果」なので、因果応報と言えばそうなのかもしれないな。

ラストシーンで男女の上下関係が入れ替わっていたのが印象的だった。ちょっとやり過ぎかもしれない、目指すべきは対等だからと思ったけれど、それだけ女性は虐げられて来たから。犬になっていた男はそれだけの事をして来たから、と思うとやっぱり因果応報なのかも。哀れなる者たち、と言うのはベラのような異分子側ではなくて、異分子を異分子としてしか扱えない人達の事なんだろうな
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