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哀れなるものたちのi9のレビュー・感想・評価

哀れなるものたち(2023年製作の映画)
4.7
あっぱれ

「映画好きが好きな映画だよ」と聞いていたから、どんなキモい映画なのかな(褒めてる)とワクワクしながら観てきたんだけど、なんか割とわかりやすかったしサクッと観れたからびっくりした!

ストーリーはシンプルなのに彫り甲斐があるし、ちゃんと伏線を事細かに説明してくれるからどんなに理解力なくてもエヴエヴのように置いてけぼりになることはないので観やすい。

いろんな層を集客できる要素がたっぷりで、興行収入のことも上手く考えられているなと感じた。
俳優も一人ひとり人気だから俳優ファンは勿論エマ・ストーンの裸体見たさに観る輩も後を絶たないだろうし、プロットがシンプルだから映画分析厨はみんな自由に気持ち悪い分析(褒めてる)がしやすいからと何度も見る人も多いだろうし。

エヴエヴよりエンタメ性とアート性のバランスがすごい取れていて上手いなと感じた。





以下みんなと語りたいこと

・題名『哀れなるものたち』が、なぜpoorpeopleではなくてpoor thingsなのか
→一人の女性の人間成長物語、とレビューに書いている人が多いがはたしてそうだろうか。人間の枠には収まらないのではないだろうか。主人公が幼少期からキメラに囲まれて生きる中で、生命そのものに対して種別の枠で考えていないからここではthingsと表記されているのではないだろうか。元旦那にヤギの脳を移植することも、一般には殺すよりもグロテスクなことかもしれないけどベラには悪気はなく、共存するための手段でしかないんだと思う。至って普通の救済処置。それがおもろい。

・ベラはpoorか?
→最初は監禁されているからpoorなのか、こういう生い立ちだからpoorなのか、純粋無垢なのに性的に搾取されてしまうからpoorなのか、と考えていたけれど話が進んでいくと全然poorではない。なんのバイアスもない目で世界をキラキラ見ることが出来てめちゃ恵まれとるやんけ!ってなっていくのがおもろかった。
そもそも論何をもってpoorなのかなのよな、最初に私がベラ=poorと感じたのも、外の自由さを知っているからこっちが勝手に自分や一般的な人たちと比べて評価しているだけであって本人はそうは思っていないし。
今のSNS社会もそうよな、人と比べてしまうからpoorに思えてしまうのよ。(突然何)

・poor⇔richの対比
→生活はめちゃくちゃrichに描かれているからそこもまた二項対立が描かれていて面白い

・キリスト教で読み解く『哀れなるものたち』
→人間だけが神に似せて作られた被造物であるキリスト教では人間と動物を相剋して描く行為はもちろんタブー。自殺もタブー。売春婦同士で性行為するのもタブー。人の生死に関わろうとすること事態タブー。世界的に見て視聴者はキリスト教の人が多いわけだから、すごくそのタブーを描くことが主人公のなんのバイアスもかかっていないピュアさ、人間らしさ(というか動物らしさ?thingsらしさ)が表されているんだろうと感じた。

・風俗で幼少期の話させることに関して
→性的嗜好は幼少期のトラウマとかに影響されている気がするしいい統計が取れそうだしどんな状況でも知識欲を満たそうとするベラ、いいぞ。

・ベラの死生観
ベラはキメラに囲まれて育っただけでなく、死体とも共存していたわけだから(死体では自由に遊べた)死生観の学び方についても深掘りしたい。

お船でおばさんと関わって成長している様子が皆見えたけれど、そこで成長しきっていたわけではなかった。ちゃんと文明化されたか?と思いきや、船からおばさん落とそうとするシーンは視聴者が心配になるくらいめちゃくちゃはしゃいでいたし、死ぬとどうなる、とかに関してはちゃんとその時はわかっていなかったのであろう。その時の空の描写がキラキラしていたから。それがゴッドが死ぬとなった時のロンドンのリアルな風景描写との対比。白黒の描写や視野の狭さ、自由になった瞬間からのカラーなど、背景に心情が表れていて大変わかりやすい笑

・本作におけるエディプスコンプレックス
→風俗のBBAの噛みグセ顕著笑

・「レディース、酒の時間よ!」という終わり方
→使用人の女性すら椅子に座っていたのに夫に席はない。皮肉?酒は彼も飲んでいたが少しもやった。


⭐︎以下感想と学び
ゴッドがあんなに自分のためにモルヒネ打ってでもヴァージンロード歩いてくれたにも関わらず伯爵について行った知識欲にはあっぱれ

普通の人だったらここまでしてくれたし、こんな思いでここまできたし、娼婦である自分を受け入れてくれる人と結婚しようとなってしまうけれど。ついて行かなくても、私はもう過去のその人物ではないと理解できるしね。でもやはり人間自分のルーツを知りたくなるものだから、やっぱりそこで伯爵について行ったからこそ、最終的に今にたどり着いたんだと思う。(ゆーて元旦那以前に自分の血縁であるパパだもんな)

何事も安定でなんとなくで生きてしまっている我々現代人にびびびとくるよね!私もベラのようなイカれ思想は持ち合わせているタイプだとは思っていたけれど、最近落ち着いてきてしまっていたからもっとがんばろ!人生は1回きりだもんな!となりました。小並感
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