YoshihiroToda

哀れなるものたちのYoshihiroTodaのネタバレレビュー・内容・結末

哀れなるものたち(2023年製作の映画)
4.2

このレビューはネタバレを含みます

もしも超ピュアで真っ白な考えの
大人の女性がこの世界にいたとしたら?


※以下は私の勝手な解釈です


何の知識もなく、
何の教養もなく、
何の差別もなく、
もちろん崇拝する宗教もなく、
生まれてくる赤ちゃん。

成長するにつれ、
さまざまな欲におぼれ、
さまざまなことを経験し、
さまざまな知識を得て、
一方的な価値観や差別観を形成し、
大人になっていく。

そんな大人ではなく、
体は大人、赤ん坊の脳を持つ女性ベラ。
例えていうなら、
大人になりきった自分自身のまんま、初期化したような感じ。
そんな人間が、どんな経験をして、どんな考えに至るか、それがこの映画の面白さではないかと思った。

体は大人、真っ白な考え。
そんなあり得ない設定をあり得る世界観に落とし込むための、死人の脳入れ替え。
無茶苦茶ではあるが、それが1番手っ取り早い設定であり、ファンタジーだなと思った。

さて設定は整った。
彼女はどのような人生を歩むのか?

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真っ白な頭の中は欲望が先行する。
好奇心が優先される様は子供さながら。
あらゆる選択に守りの選択は無い。
そんな無垢であるがゆえ、観ていてハラハラする。どうかこのまま綺麗な心のままでいてくれと願ってしまう。

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彼女が出会った人の中で、
大きくプラスに成長させた人は、
船で出会った老女、
老女に付き添う黒人男性、
売春宿の婦人、
ではないかと思った。
老女からは、
見たものだけではない想像力や教養を。
黒人男性からは、
理想とはまったく違う現実と絶望を。
婦人からは、
固定概念のない芯の通った生きる力を。

逆に何の成長もない今だに子供のまんまの考えで大人になった人間とも出会う。
金と欲望で生きているような緑男ダンカン。
地位主義で女を見下し暴力的な将軍夫。
完全に哀れなる者として観てしまった。

人間生きていて、誰もがダンカンや将軍のような人物にもなり得る。
ベラがそのような人物にならなかったのは、老女や黒人男性、婦人の考えを素直に受け入れ、自分自身にしっかりと消化させたからではないか?
他人を思いやる想像力や教養、現実を把握し絶望も受け入れる。そして自分に自信をもって芯を通す。
そんな経験があったからダンカンや将軍よりはるかに成長した人物となり得たのではないか?
かといってベラは哀れなる者でないかというと、そうではない。すべての人が哀れなる者ともいえる。

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この映画のタイトルは
「哀れなるものたち」。

日本語で考えると哀れなる者と思いがちだけど、英語タイトルは
「poor things」。

哀れなる事でもある。
人を差別する事や、軽蔑する事。
力でねじ伏せる事や、争う事。
そんな事も哀れなる事なのだろうな。

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とにかく映画として、本当にすごい。
音楽も美術も衣装も。
もちろん話も演技も。
2時間ぐらいの間に徐々に成長した様子を表現していくエマストーンの演技は、凄すぎて想像を絶する。ダンスシーンも最高。体が動きたい方向に動いてる感じで、なんというか魅力的。

最後、将軍の頭にヤギの脳を移植していたけど、ヤギの頭に将軍の脳を移植したほうが、もっと残酷だったろうな、とは思った。
まあ。それだと映画的にオチにならんわな。
将軍がメェー言うてるほうがおもろい。

いやーーほんと圧巻でした!
YoshihiroToda

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