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哀れなるものたちのbarthelemyのネタバレレビュー・内容・結末

哀れなるものたち(2023年製作の映画)
4.7

このレビューはネタバレを含みます

音響、脚本、テーマ、美術、演技共に素晴らしい。ある種、確かに色々と奇抜ながらもアカデミーを取る"王道的"な2024年の映画だなと感じた。
この感想はエブシリングエブリウェアオールアットワンスを見た時に近い。今のトレンドが綺麗に散りばめられつつ、ヨルゴスランティモスの独創性を出すところは上手く出している。

主題はベラバクスターの自立(金銭、意志)、自己決定権(自由意志、判断)、幸せという古典的な第一次・第二次フェミニズムだが、その調理方法が上手い。

ダンカンは枠から外れた魅力的な女性が好きだが、ある程度を超えると豹変する。そのラインがかなり都合が良い。なにせ初めは美貌を持つ幼児。初めはダンカン達にとって都合がよすぎる。色々な世界を見せようとするが、世界の大多数を占める貧困すらダンカンは頑なに見せない。自らの豊富な性経験を誇示するが、ベラにはアバズレ呼ばわり。古典的だとは言ったが、この頃から社会構造も倫理観道徳観も何も進歩していないのは皮肉。

将軍はかなり分かりやすい夫で、元の人格の自殺の理由が判明する。将軍を進歩させることにより、ヤギになるという表現はかなりシュールでおもしろい。

マックスは愛しているからこそベラの自己決定権に委ねる、という思考に徐々に変化するのだがそんなに人は変わるか?という印象。

フランケンシュタインという父性も初めはベラにとって初めての檻として表現されるものの、ダンカンとの旅行を許すこととなる。キスをして任せるか、hatredを生むか、というベラの言葉に突き動かされるゴドウィンは最終的にベラに看取られるのだがそれまでの喪失や苦悩の表情がうまかった。本作はもちろんベラの成長譚なのだが、ゴットの科学と実験と合理性からの人間性の回復、という大きな主題も含んでいる点が物語に奥行きを産む。

ベラから船で知性を奪うダンカンに、2冊目の本を渡すシーンが印象的。サーラ夫人や娼館の友達など共に知の地平線を拡げようとする仲間たちに奮起させられる。

食事のエチケットをダンカンが話す時に、delightedと言えと言うギャグシーンがあるが、モテる女のさしすせそと同じだなと笑った。

美術のスチームパンクと配色が心地よく、特に船の造形が好きだった。娼館や博士の家の内装が明らかに非合理的なのに画面映えする所が良い。特に手すりの造形にこだわっており、かつ描写が多かった。

ゴドウィンからマックスのもとにベラの所有権が結婚式で移る?ように描写されるのは今でも気持ちが悪いな。

人間も社会も進歩するはずなので、
社会の良識に囚われず、
冒険しよう。
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