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哀れなるものたちのAZのレビュー・感想・評価

哀れなるものたち(2023年製作の映画)
4.2
アダルトブラックファンタジー。

キャラクター、世界観、音楽、衣装デザイン。どれも創造力を刺激する。ストーリーはどうか。個人的には自分が見たヨルゴス・ランティモス作品の中で一番見やすくわかりやすかったし、好き。ただそのわかりやすさ、理解していると思っているものの中にある理解していないものの重要性について改めて考えさせられる。

つまり私たちはわかった気になってしまいよく考えていない。それは子供にこれは何?なんで?と聞かれて答えられないものと同じ。

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ベラとゴッドの登場ですでに心が掴まれる。その個性的なキャラクターに個性的な衣装や建物、不思議な音楽と共に白黒で映される世界。時に古典的な雰囲気を感じさせるカメラワークも良い。

登場人物に感情移入させるのが上手い。それは役者の演技にかかってくる部分が大きいが、エマ・ストーンの子供の演技が素晴らしく、だが外見は美しい女性という魅力的な人物で、彼女に恋をしてしまったマックスに共感できる。何より、動きにしなやかさ、美しさが保たれているのがよく、それはダンスシーンにも現れていた。

そのダンスシーンだが素晴らしかった。不穏な音が鳴り響く中で、体を揺らしながら踊り始めるのだが、そのシーンは何かが始まってしまった恐怖と喜びが入り混じっているようで、不思議な感動を覚えた。ベラが世界を知っていく姿と、ダンカンが不覚にも彼女に恋をしてしまい愛憎に苦しむ混沌とした状況が見事に表現されていた。

純粋なものが少しずつ汚れていく姿は胸が苦しくなる。構造としては最悪。それはベラがまだ子供だから。幼い子とSEXをしている状態。

本人がそれをまだ理解していないのがもどかしい。だが、それは客観的に見た感情でしかなく、ベラ本人は大人になり知識が身についてもそれを悪い経験と捉えていない。

他作品のように性の捉え方が独特。俯瞰して性を捉えているように見える。人にはこの行為や感覚がどのように見え、その上でどう解釈し直すかといったことを繰り返し表現しているように思う。他にはない性の表現だが、確かにと思わせられる。なぜ悪いもの不純なものと捉えているのだろうと。

世界の見え方を普遍的に映し出しつつ、ベラを通して再考させられる。最初は疑問だらけだった世界に対し、こうあるべきではないかと考えを持つようになる。言葉によって世界の解像度が上がっていく。

解像度は上がっていくが、彼女から発せられる言葉は少しずつ抽象度が高く、哲学的になっていくのが面白かった。世界は簡単な言葉で表せるほど単純なものではないということだろう。

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全体的に好きな作品だったが、特に音楽が素晴らしく、不安、切なさ、悲しみ、そして喜び、愛といった様々な感情が溢れてくる。

今ままでストーリーや予告を避けてきて良かった。想像したものと全く違うものが映し出され、次は何が起こるのかよりワクワクしながら作品を鑑賞できた。と思ったら突然SEXシーンでヨルゴス・ランティモス!となった。
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