HicK

哀れなるものたちのHicKのレビュー・感想・評価

哀れなるものたち(2023年製作の映画)
4.4
《不可解な現実を"生き物"目線で見る》

【主人公:ベラ】
脳は赤ん坊、体は成人女性のベラ。言動は赤ん坊というより、無理な人体実験で少々バグってる様子。単に"生き物"と言った感じ。自分の性器に興味をしめし、自分にはない男性のものにも興味が向く。それは人として「恥ずかしい事」だが、彼女には純粋な好奇心と人間の本能である「快楽・幸せ」の追求でしかない、というのが見てとれた。

【男たち】
ウィレム・デフォーが演じるゴッドやマーク・ラファロが演じるダンカンなど、男たちはベラを縛り付けて監禁状態にする。また、ベラの要望に対して「No!」と否定し続ける場面も多く、彼女をコントロールしようと抑圧していたのが印象的だった。

【ベラの成長】
社交辞令的礼儀や世の中の残酷さ、社会の仕組みなどを学んでいき、知的好奇心も満たしていく。そして、自分の性器で金を稼ぐようになるが、それは世の中を一通り経験して"社会人"として自立し合理性を見出していったようにも感じた。人として学んでいくにつれて、文字通りちゃんと歩けるようになっていき、性器の使い方も変わっていったのは面白い描写だった。後半でゴッドの助手のマックスに「かわいいわね」と言っていたのが、立場が逆転していて微笑ましかった。そして、元夫のラストシーンでの「(あなたがしてきた事は)こういう事なのよ」を表した場面は強烈だった。

【演出】
独特でカラフルな色使いやアート性の高いコスチュームが好きだった。また、ズームイン・アウトの多用や人物を追いかけるカメラワークなどが昔の映画っぽい。セット内を動き回る時は広角カメラのような演出だったり、尖った演出。覗き穴のような演出もあったが、どういう意図だったんだろう?。

【演技】
エマ・ストーン、めちゃくちゃ良かった。成長過程がとても自然。グラデーションのように絶妙なさじ加減で演技を変えていったので、序盤との対比になっている後半の自宅シーンでは「こんなに変わってたんだ」と少し驚いた。あと、マーク・ラファロは「アベンジャーズ」でのバカっぽい役が自分の頭にこびりついてしまっていたので、「そう言えばこの人、演技力高いんだった」と思い出した 笑。

【総括】
男性からの抑圧など、『女性の"生き物"』として「洗脳のない純粋な目」で見た時の世の中のおかしさが伝わってきた。また、女性が自立した時にもその選択に難を示すのは男性。そこには少しだけ「合理的な娼婦がなぜ悪い?」と常識に疑問を投げかけるような意味合いも感じた。(それに関するマックスの回答「自由にすべきだけど、嫉妬はする。性病検査はしてね」が好きだった。ベストアンサー)。

そして、ベラとダンカンを見ていると、どちらも快楽主義なのに男にはそれが許され、おまけに支配権も付いてくるっていうのが良いところ突いてくるな、と。かなり尖った作品なので好みは真っ二つに割れるに違いないが、奇妙さ奇抜さを爆発させながらも身近なテーマを描いているという所に惹かれた。
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