ジジイ

夜の外側 イタリアを震撼させた55日間/夜のロケーションのジジイのレビュー・感想・評価

5.0
前編後編あわせて340分。1時間の休憩を挟んで一気観に挑戦したが、結果大感動だった。1978年のイタリアで起きたキリスト教民主党党首が極左グループに誘拐された事件を、史実とフィクションを交えながら描く。不勉強でこの歴史的事件自体を全く知らなかったことが、その衝撃と感動をMAXにしたようだ。監督は「エドガルドモルターラ」のマルコベロッキオ。人間が同じ人間のすることに失望し、心に深い傷を負うこと。またそれに希望的改編を施し共有することで得られる慰めと癒し。映画という芸術の持つ可能性の奥深さを改めて感じた。





以下ネタバレです。





冒頭、無事解放され病院のベッドで涙を流すモーロ。これが史実という勘違いでラストまで比較的のんきに観ることができたが、とんでもない結末に言葉を失った。だがそれは当時のイタリア国民が味わったであろう落胆と悲しみには遠く及ばない。冷戦下の時代に共産党との大連立を目指した彼が抹殺されたことは、ある意味イタリア一国の問題ではなく、東西世界が強要した必然だったのかもしれない。当時の首相(共産党との連立には反対、旅団との交渉も打ち切った)が関与したという噂など、事件の闇は底なしの様相を呈しているらしい。モーロが十字架を背負って歩くシーンはひどく象徴的で、結末を知っていたら涙を堪えることは出来なかったと思う。

追記 冒頭部分は非史実であるが、モーロが残した文書の中に「赤い旅団」に対しての「解放の謝辞」があり、それを脚本に取り入れているのだという。モーロは監禁期間のある時点では「あなたは必ず解放されます」と旅団メンバーから励まされていて、このような文書を書き残したらしい。十字架を背負いながら歩いた彼が、からくも死の淵から生還する。監督はモーロの悲劇にイエスの復活のイメージを重ねて、悲しすぎる史実を上書きしようとしたのだろうか。
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