わかうみたろう

春画先生のわかうみたろうのレビュー・感想・評価

春画先生(2023年製作の映画)
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 テーマにもよらずしっかりと演出で笑いを取りにいく姿勢に気軽さを感じて共感できる。映画館でかなり笑いながら観れたのは久々だった。セックス中に男性が頭にスマホをつけて女性の音声を女性が愛する春画先生に届けるシーンなど、その滑稽さも本人たちの切実さが女優の感情が揺れ動きまくる演技によって切実さと共存している。また性行為のシーン以外の、木々がザワザワ揺れる中で鳥のさえずり声が聞こえることで春画先生の家に主人公が入り込む決意をする描写等にもエロスが含まれていて引き込まれる。編集と演出で映画全体のリズムを早くしたり遅くしたりと自在に操っていて、なにかに向かってゆっくり歩くシーン走るシーンのコントラストが映画内で構成されているのが良い例である。禁欲的で欲望を管理することが尊ばれる社会の中で突き抜けて、爽快に自分の欲望に実直な登場人物たちは個人の人生を生きていて魅力にあふれていた。
 メロドラマとしてファンタジー要素が強い。特にヒロインの演技は近年の日本映画に良くありがちな女性が悩み暴走するという像を踏襲している。しかし、春画と春画先生には人の心を開放する力があるというセリフを言う柄本佑演じる編集者の落ち着いてるが変態である佇まいが映画全体の世界観を影で担保している。役者一人一人演出の仕方が異なることによってファンタジーをファンタジーとして徹底して楽しむ大らかさが生み出されていたように見える。