映画空間中野

イ・チャンドン アイロニーの芸術の映画空間中野のレビュー・感想・評価

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映画監督についてのドキュメンタリーの多くは、関係者たちの証言を断片的にまとめ、どこか楽天的な印象がある。
イ・チャンドンについての本作は、関係者の証言を引用しつつも、イ監督本人に語らせ、どこか自戒的な雰囲気を帯びている。

村上春樹的世界で生きる、若きフォークナーのような青年が登場する『バーニング』(2018)に衝撃を受け、他のイ作品に触れたいと願っていたが、なぜだか、気が乗らず、先延ばしにしていた。

先延ばしの理由が、明確になった。
『バーニング』を観て、イ監督への期待値が上がり、他の作品を観ることによって、彼への期待値が下がってしまうことを恐れていたのだ。そして、もう一つ、イ作品は、私に対して、精神的な疲れというのか、美しいのだけれど、痛み・苦しみというしこりを残しているのではないのか。

しかし、気になる作家である。どれか一つでもイ作品を観て、私のように、気が乗らない方がいれば、ぜひ、本作をオススメする。エンジンとなり、他の作品を観たいという欲求を加速させてくれる。

本作は、一人の映画作家についての映像的な作家論だけではなく、韓国という国家に生きる戦後に生まれた世代の生活史としても読むことができる。