荒涼とした土地で孤独な旅を続ける父娘の姿を描くロードムービーで、セリフのほとんどない地味な作りがなかなかキツかった。ロングショットの長回しや一見意味のないカメラのパンが多用されて画面に緊張感を醸し出し、神秘的かつ不穏なBGMが父娘の様子をじっと見つめる神視点を感じさせた。最後まで観ると、本作は少女の成長と喪失の乗り越えを描いてるように思った。
前半で登場人物達がほとんどカタコトでしか会話しないので、父娘が何をしてるのか最初よく分からず戸惑った。中盤でようやく彼らが移動映画館や違法コピーのDVDソフト販売で稼いでることが分かり、彼らが世間から逃げ隠れしながら旅をしてることが分かる。娘が父親から日陰の暮らしを強いられてる状況には「足跡はかき消して」を連想した。
父親が行きずりの女性と接近するたびに娘が不機嫌になるのが子どもっぽかったんだけど、つまり「まだ母親の供養が済んでないのに!」っていう怒りだったんだね。彼女が父親の理不尽な支配から逃れるために取る行動はある種のイニシエーションで、大人の女性への一歩を踏み出した彼女がようやく母の供養に踏み切る幕切れは清々しい。
娘がポラロイドカメラで自分の心が動いた瞬間を捉えてて、コレクションを車内に貼り付けてるのが彼女の小宇宙のようだった。タイトルの”GRACE”は娘の名前かと思いきや、エンドクレジットの役名が”Daughter”、”Father”としか表示されないので、その言葉本来の持つ「美しさ」や「恩恵」という意味を、娘の最後の行動を含めてこの世界の摂理に重ねたのかなと思った。”Amazing Grace”という讃美歌もあるしね。