モリッツ

ネズミは天国がお似合いのモリッツのネタバレレビュー・内容・結末

ネズミは天国がお似合い(2021年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

本当は臆病だけど口が達者なネズミの女の子シュピトと、どもりで引っ込み思案なキツネの男の子が、冒険を通して、食うか食われるかの敵対関係を乗り越え、この上ない絆で結ばれる友情物語。
ふむふむ、子ども向けのパペットアニメーションねと侮るなかれ…大人たちのすすり泣きがあちこちで聞こえる良質な映画でした。

開始数分で主人公が死ぬという容赦の無さが、さすがチェコ。からの、天国パート。世界観の作り込みが素晴らしすぎる。
動物たちの入浴場は、ちょっとジャングルクルーズを思い出す。地下浄水場、ゲームみたいなトロッコ、夜の遊園地、恐怖の館、クジラ映画館。どれもこれも、どこか懐かしく、でも今まで見たことがない景色で、引き込まれた。

井戸のシーンで、2人が水中を覗き込んだ時に、この世の真理が早回し再生されて、ザリガニさんが「時間は前にしか進まない。この世のどんな生命にも終わりがある。終わりがあって、始まりがある。それを永遠と呼ぶ」という感じのことを言ってて、ざ、ザリガニさん…!!ってなった。

自分を守るために悪キツネに食われて亡くなったパパ(英雄)を探し求めていたシュピトが、自分の臆病さとちゃんと向き合って、いっそ食べられてもいい!と体当たりで、我を忘れて暴れるキツネくんに組み敷かれて、ギュッと目を閉じて、涙の粒を光らせながら子守唄をうたうシーンには、涙と鼻水が止まらなかった。コマ撮りならではの、画の奥深さをこのシーンで一番感じたかもしれない。
キツネくん、終始、目が優しいんだよなぁ。これもまた人形だから出せる味わいなんだろうか。
クジラ映画館で上映されるキツネくんの前世フィルムがもう…もう…!キツネくんの慎ましく孤独な前世をまるごと抱きしめてあげたかった。
映画館から上昇気流に乗って来世へ旅立ち、そして転生。シュピトはキツネに、キツネくんはネズミとなって、雑草だらけの因縁の公園で向き合い、連れ立って走っていく。もうひとりぼっちじゃないんだねぇ。
この映画、日本の子どもたちにも広く観てほしい。どうかDVD発売されますように。

上映後、チェコセンター東京の方がチェコ紹介のトークショーをしてくれた。人口1000万人ほどなので、人が居ない場所の方が多く、自然が豊か。人形劇が盛んなのは、オーストリアやハンガリーの領土下において、チェコの言葉や文化を残したいという想いを人形に込めて表現してきた歴史があるからなのだと。
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