金春ハリネズミ

ザ・クリエイター/創造者の金春ハリネズミのレビュー・感想・評価

ザ・クリエイター/創造者(2023年製作の映画)
4.6
色々言うけど、おもしろいです。

トホホな一本です。
良くも悪くも、笑っちゃうような仕上がり。

まずは取り止めもない不平不満、戯言をつらつらと。

過去の叡智の結集。
良く言えば映画愛に溢れたファンダムな一本、悪く言えば過去の意匠にあやかった、"絶対に外さない"安全牌。
「こんなんみんな好きに決まってるやん」の代名詞です。

そんな、誰もが心震わせる名作お得パックなこの世界は、アメリカはロサンゼルスと、アメリカンなジャポニズムを孕んだ"ニューアジア"なる謎国の、2つの国しか存在しないセカイ。

んなセカイあるかい。
はちゃめちゃもええとこです。
現在起きている諸問題、その渦中にある国々には目も向けず、"アジア"と大きく括りながら、その大きすぎる存在に萎縮したのか、中国の存在もオミットです。

サイバーパンクなジャポンと、ベトナム戦争な農園、ブッディズムインディ。如何にもアメリカ人が容易に想像しそうな、ヘンテコアジア感をクリエイトするのは結構ですが、そのあまりにも能天気で荒唐無稽な姿勢にはトホホ以外の言葉が見つかりません、、

それに加えて主題はAIだって??
はて、いったい何処へ行きたいのやら。
正直"史上最強の覇権国アメリカ様"の自作自演、自業自得のオナニーは腐るほど見てきたので、いよいよ別にはいはい。って感じで。

なかなかどうして、滑稽にも程がありました。

こんだけ偉そうに、ボロクソ叩いときながら、それでもこの映画は面白かった。
Queenというバンドを、つまらないバンドだと否定するような人にはなりたくないわけです。
この世にアンパンマンなんて居ないとわかっていながらも、それでもTHE BLUE HEARTSの叫びには耳を傾けたいわけです。
だから僕はわざわざ映画を観るんです。

正直言ってめちゃくちゃ泣きました。
本作を面白くさせているのは、舞台装置でも、過去の意匠でもない。
スクリプト。作劇。脚本。
もうほんまに、綺麗すぎて惚れ惚れします。
ハイコンセプトな筋書きを、しかも空想科学で、実にややこしい事情を含んだこのシナリオを、丁寧で見事に、ひたすらカタルシス目掛けて一直線に飛ばしてくれる。すこぶる気持ちがいい。

これをスターウォーズやキャメロンの結晶とかいえばそうだけど、兎に角。

AIとか、世界情勢とか、理屈もへったくれも、どうでもいい。
何かを守りたいやつが、がむしゃらにも不器用にも必死で守ろうとするその勇姿に僕はただ魅せられたいだけなんです。

映画に必要なのは正当性や辻褄よりも何よりも、心のドラマだというのが良くわかります。
クライマックスなんか泣いちゃう。何がどーなってるのかはあんまよくわからなかったけど、泣いちゃう。

これでいい、少なくともこの映画はこれでいいんですよ。

色々時代性が変わってきて、オリジナル新作を作るのがなかなか難しい現在のハリウッド情勢のなか、こんなに堂々と、単発の、フランチャイズではない一本こっきりの新作を作った。
これがどれだけ勇気ある試みか分かれば分かるほど、この映画に、ついつい感謝したくなる。