にゃーめん

ザ・クリエイター/創造者のにゃーめんのレビュー・感想・評価

ザ・クリエイター/創造者(2023年製作の映画)
3.4
「AIロボットと人間は共存できるのか」

SF映画で散々擦られたテーマが、いよいよ現実になってきた昨今、より切実な気持ちになって鑑賞している自分に気付いた。

ベトナム戦争を彷彿とさせる舞台設定なので、映像的にツラいシーンが続くが、
子供型シュミラン(模造人間)のアルフィーと潜入捜査官のジョシュア(人間)の逃亡劇は、「マンダロリアン」を彷彿とさせる子連れ狼的ほっこり展開もあるため、心が救われる。

アルフィーが、自分の名前は「キャンディ」が良いと言ってふざけてみたり、アイスクリームをねだった時の無垢な笑顔に、子供本来のピュアさが垣間見え、心が和んだ。

人間と同じように成長していく子供型として造られた"AI兵器"というのも、倫理観を揺さぶられるような脚本であった。

AI周りの設定で興味深かったのが、AIロボットも「宗教」を信仰しているという点。
ネパールがロケ地であることもあり、仏教的な教えに近い宗教を想定しているのか、寺院にある立像も旧型の(?)AIロボットの形を模していたのは何とも不思議で、その世界観に引き込まれた。

それに伴うAIロボットの生死観もこれまた興味深く、AIロボットが死んで(?)荼毘に付す時も火葬するし、AIも「輪廻転生」するという設定に、AIと共存する架空の国(ニューアジア)の世界観と近未来SFの融合表現は新鮮であった。

AIからの「天国に行けるの?」という問いは、胸が締め付けられるようだった。
AIは人間では無いため天国には行けないからだ。
天国という概念も宗教が絡んでいるため、AIに宗教観を持たせた点が面白い。

また、AIにも"心"が存在するため、「アフター・ヤン」的な、実在する人間と同じ姿形の模造人間ロボットに人間側が情愛を感じる域まで達しているという設定が、何とも複雑である。

相手はAIだから殺してもいいはずだし、死んでも作り直せばいいので、悲しくないはずなのに、なぜ涙が出てしまうのか。
自分の感情に驚いた。

後頭部が義体化しているシュミランの設定は明らかに「攻殻機動隊」を意識しているものであろう。
後頭部に物理メモリを直差しして、人格・記憶を別の義体でも再生できるという設定はグロテスクでもあり、ラストのジョシュアとマヤのシーンは、全く喜べない自分がいた。

人間の形を模しておらず、見た目ロボロボしい存在(スターウォーズでいう、ドロイドのような)にさえ人間は今後、情愛を感じられるようになっていくのか、それをよしとしない組織との戦争が、現実的に起こりえるような気がしてくる作品だった。

見た目が過去に愛した人の形を模していれば、それが偽物だったとしても愛せるものなのか。人間の心とは複雑である。

劇伴はハンス・ジマーで、アジア感のある尺八を使用した楽曲が世界観にマッチしていたように思う。

Radioheadの「Everything in Its Right Place」が挿入されていたシーンは、ファンとしては嬉しくもあったが、そのシーンで使うのか…という複雑な気持ちで見守った。(インタビューを読むと、「Burn The Witch」を使用する案あったそう)

「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシーvol.3」においての「Creep」ほどの驚きと感動は無かったが、思い入れのあるアーティストの曲が映画で使われるのは嬉しいものである。

アジア的な映画表現で言うと、ギャレス監督の日本好きが各所に散りばめられた演出にはニヤリとした。
ネオン街の看板(「龍角散⁈」)や、ノマド=遊牧民などのフォントは若干のノイズになったが、それも監督のこだわりなのだろう。

人間を助けてくれるはずのAIと争うような未来にはなって欲しくないし、そうならない事をただただ祈る。。
にゃーめん

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