北極の米軍基地でひそかに行われた原爆実験により、古代の怪獣が目を覚ました!闇夜に紛れてアメリカを縦断した怪獣が、NYの街を未曾有の大混乱に陥れるお話。レイ・ブラッドベリの短編小説『霧笛』を映画化した、ゴジラよりも1年早い原爆モンスター映画。
のちにストップモーションの神様と呼ばれることになる、『キングコング』を90回見た男ことレイ・ハリーハウゼンの手がけた特殊撮影が作中の白眉で、このデビュー作でトンデモない辣腕を振るっておられる。ストップアニメーションにより命を吹き込まれた怪獣が、波の打ち寄せる闇夜の灯台を破壊するシーンは、低予算映画とは思えない圧巻の出来。ミニチュア特撮を駆使したこの撮影方法で、こんなにもリアルな波の感じを出せるって、どう演出したのだろうと思う。
NYの市街地(それもウォール街)を舞台にした大乱闘は特に素晴らしく、怪獣が車を投げ飛ばし、人間を丸呑みにし、ビルを突き破った際の瓦礫で人々を下敷きにする映像をモンタージュで重ねて見せる演出は本当にお見事。街の細部は目を凝らすまでもなくミニチュア感満載なのに、映画を小さく見せない工夫が随所に凝らされていて、着ぐるみモンスターを大暴れさせた日本の特撮とは一味違うリアルさがあるなとしみじみ。
ただ、波止場から上陸してきた怪獣がNYを襲うシーンでのエキストラさん(これまた低予算映画とは思えない人数!)の演技が若干緊張感に欠けてるのは、本作がミニチュア特撮を使った巨大モンスター映画の原点であることを考えれば、ご愛嬌なのかも。そこにモンスターがいると思って逃げて下さい!と言われても、そんな映画を(20年前の『キングコング』以外)見たことない人たちからすれば何が何やらですもんね。
最終幕のコニーアイランドを舞台に移して繰り広げられる、これまたミニチュア特撮を駆使した怪獣との殲滅戦も大興奮でした。無人と化した夜の遊園地を訪れた際に、原作者ブラッドベリがその景色に怪獣を重ね、本作の着想に至ったとのことで、作品的にも大事なシーンなのだと思う。そのブラッドベリとハリーハウゼンは高校時代からの友人同士で、ラストの展開は2人で話し合って決めたのだそう。監督の映画ではなく、特撮マンと小説家の作品というわけですね。素敵。
燃え盛る炎の中、地面に伏し起き上がれなくなった怪獣の上に「THE END」の文字が重なるラストショットには、じーんときたよ、、「僕にはあれ(ジェットコースター)を壊すことはできません。思い出が詰まってますから」と言ってジェットコースターの上に登って怪獣退治をする隊員も哀感あって好き。原題『二万深度からの怪獣』は、ジェール・ヴェルヌの『海底ニ万浬』を、核開発後の世界に移した設定という意味合いなのかな。これは忘れられない作品になりそうだ、、
——好きな台詞
「実験をやるたびに新時代の第1章だと思ってる」
「旧時代の終章でなければいいがね」