くるりの原点回帰と、「東京」や「ばらの花」に匹敵する表題曲が生まれる瞬間を捉えたドキュメンタリー。
岸田さんが、くるりのクリエイティブを牽引しているというイメージがあったが、必ずしもそうではないことが、今作のドキュメンタリーから伝わってくる。
ベース&コーラスの佐藤さんが、レコーディング時などに、的確で時にシビアなディレクションをしていることが、驚きだった。
お互いがお互いに対してディレクションし合っている関係性で、くるりのなかで主観と客観の絶妙なバランスを保っていることがよくわかる。
黎明期から数々の変貌を遂げた後のくるりには、そんなふたりの関係性が確立されている。
そこに召喚された、初期メンバーから脱退したドラムの森さんの浦島太郎感がなんともいえない。
実家に戻ってきたはずなのに、他人の家の敷居をまたいでしまったかのような、気を遣っている雰囲気が表情などから伝わってくるし、
くるりのおふたりも、その壁をどう壊して、どう森さんを丸裸にするか試行錯誤しているスタジオセッションだったように感じる。
京都・拾得での「尼崎の魚」や「東京」の演奏で、その壁を森さんが見事なまでに破壊し、それを受けたふたりが本当に楽しそうに演奏している表情がマジで最高。
そして、くるりの代表曲(とされる)作品はこの3人編成から生まれているが、今回の再編成で、また新たな代表曲が生まれることになる。
『California coconuts』。
この曲に完全にやられてしまった。。
サビが一回しかない儚さ(『In Your Life』も同様に最高!)がありつつも、
誰かの人生に寄り添い尽くすあったかさがある。
「ココナツ」という言葉から想起される香りやムードと、愛の奥底をぎゅっと握ってくる優しい詩の世界が相まって、
くるりだからこそできるエキゾミュージックなのでは…と思った。
そんな新しいくるりの表題曲が誕生する瞬間をつぶさに捉え切った今作は、本当に貴重な記録。
曲のラフを練るセッション中に、岸田さんがコードを考えている「間」など、アイデアがまとまるまでの間を、あえて編集でカットしない形をとっており、
「だらっとした時間」をカットしない編集のおかげで、セッションの空間に立ち会っているような気持ちにさせてくれる。
あと、とにかく全編通して奇跡的に天気が良いのも、映画全体にあったかい幸福感を与えている。
今となっては「ばらの花」をどうやって作ったか忘れてしまったくるりが、
ばらの花的なアプローチだけど全然違う曲に仕上げていく様子も最高。。
(しかもタイトルが「朝顔」だなんて!)
不慣れなピアノ連弾に必死に打ち込む3人のカットこそメインビジュアルにしてもいいぐらい、オリジナル・くるりを体現していると思う。