昨年の本国公開時、いろいろな意味で物議を醸し、また、低予算ながら予算の数倍稼いだという作品。日本公開はないのだと思っていたので公開になったのはよかった。ただ、後から知った付随する情報だけでなく、映画単体で考えても微妙な点があることは否めない。
子どもを性の対象とする嗜好の人向けに見境なくさらって監禁、売春させるという非人道的な犯罪を撲滅すべく奮闘する国土安全保障省の捜査官、ティムが業務中に救った幼い少年から、同じく売られて生き別れになった姉を探すことを頼まれ、命を顧みず南米の奥地にまで捜索に行くが、というストーリー。実話だそう。
シリアスで静かな、だが少し説明調なセリフが多いようだけど、最初は印象が良かった。ただ、えげつない犯罪を描いているのにえげつないシーンも、恐怖のシーンもない。ハラハラはあるが、意外に早く回避されてしまう。そんな中で感じた違和感が終盤にかけて積み重なり、感動の度合いをかなり薄めてしまう。
疑問に感じたのは、なぜティムはそこまでして見知らぬ家の子を救おうとしたのか、そして監禁、売春、虐待などの酷い目に遭った子どもたちは解放されてあんなにすぐに安堵する表情をみせるのだろうか、ふつうもっと怯えて話もできなくなるのてまはないか、ということ。また、特に悪役のチームの描き方は輪郭だけなぞるような感じで、それだけに複雑なはずの犯罪の構図が、正義と悪という単純なものになり、ティムは正義の味方、というヒロイックな印象づけが強すぎる。そして何より、タイトルがそのままセリフになっているシーンもなんだか陳腐なものに聞こえる(そのセリフ自体はビル・キャンプ演じる元受刑者でティムの協力者となる人物が発する。魅力的なキャラだけど、元は買っていた方なのにいつのまにか私財を投じて子ども助ける側にいったという人物だが、リアリティーは乏しいかも)。
例えば韓国映画の『トガニ』ではまるでホラーのように子どもをいたぶる大人の描写があったり、梁石日原作の『闇の子供たち』ではより過酷な子供を食い物にする人身売買の闇が描かれていた。どちらでも酷い目にあった子どもはPTSD以上かと思われる状態に陥ったり自死したりする。また、助ける側の方はただのヒーローではなく、問題やジレンマを抱えており、決して状況は単純ではない。
残酷な描写があればよいというものではないし、幅広い人に観てもらうための配慮や演じる子役たちへの配慮もあるかと思う。しかし、今作の子供や犯罪人の描き方は薄っぺらさが拭いきれない。子役の俳優さんたちはみな上手だったのに残念に思う。
さらに、今作に張り付いた曰く=アメリカの陰謀論者の運動の象徴として知られるQアノンとの疑惑(利用されたという見方が妥当かな)、トランプが上映会を催したといこと、主演のカヴィーゼルがそこに絡んでいること(厳格なカソリックで中絶反対論者だそう)、そしてティムバラード(主人公のモデルとなった人物)が性的な違法行為で訴えられ、自身が設立した人身売買救済組織を追放されているという事実は、映画を見る、受け取る目を曇らせるものだと思う。
海外メディアによる監督インタビューを読むと、監督自身はさまざまな疑惑に意気消沈しているようで(自身が陰謀論者というわけではなく、迷惑しているよう)、それはむしろ救いかも。ただ力量は少し足りなかったかなとは思う。
カヴィーゼルの本編終了後のメッセージも、かなり宗教的でクリスチャンでない私にはわかりにくかった💦
出番は少ないがティムの妻役のミラ・ソルヴィーノを久々に観たがよかった。しっかり意思のある女性らしさが滲み出ていた。
心意気とテーマは素晴らしいが、リアリティーの足りない作品になってしまったように思う。個人的にはペイフォワード運動はムリ、と感じました。