ルーマニアの片田舎の村を舞台にしたコメディ〜サスペンス。のどかそうな村で起きた殺人事件を機にその捜査に関わる孤独な中年警官と村長を中心とした村人との間で繰り広げられるドラマを独特のタッチで描く。
冒頭から半ばにかけてはのんびりムード。結構早い段階で恐ろしい出来事が起こるが、それを巡って急展開ということはなく、ひたすらのろのろと話は展開する。というか、主人公イリエは基本的にちょっと嫌な人物に描かれている。始終やる気なさげ。冒頭、元妻(だよね? 説明なし)と共同で所有している街の物件を彼女の合意なく売ろうとしたり、新任の若い警官に対する態度は最悪だし(なんで来たのかとか、ゴミは見るなとか、車を使わせないとか、口答えをするなとか。嫌味な中年特有の態度)。最たるは、殺人事件に対する新人警官への指示。ふつうに抱くであろう疑惑を封印させて事勿れ主義に走ろうとする。というのもこれに絡んでいるのがお世話になっている村長と牧師で彼らが厚顔にもイリエに自らの所業を打ちあけ、口封じさせるのだ。しかもそれには管轄のお偉いさんも絡んでいるらしい。果樹園をもつことが夢であるイリエは、その悪徳村長に果樹園を🥕のようにぶら下げられ、一時は隠蔽に加担するが、、、というストーリー。
話だけでも個人的にはとても面白いと思った。また、批判的な感想が多いけど、この中盤までのだらだらした雰囲気や東欧ならではの風俗描写も私は至極面白かった。嫌ミスならぬ、嫌コメという感じで。
そして、終盤。イリエがほのかに惹かれていた未亡人(殺された男の妻で村長に言い寄られている美女)の顔の痣、新人警官が受けた暴力、果樹園の土地と家をなぜ村長が所有していたか、そしてそれ以外の村長のたくさんの悪行を知って致すある決断に観ているわたしは息をのんだ。予想はつくんだけど。その、無骨で無様な正義の暴発の、なんと面白いことか。
警官として、人間として、許してはならないことに突き動かされた様のおかしさと切実さが胸をうつのだけど、どこか滑稽。こういう悲喜劇みたいな展開は個人的に大好きなので、最終的にとてもよかった。怪作だと思います。