耶馬英彦

シン・ちむどんどんの耶馬英彦のレビュー・感想・評価

シン・ちむどんどん(2023年製作の映画)
3.5
 今年(2023年)の2月に公開された映画「センキョナンデス」の沖縄知事選版である。本作品を観る前に、7月に公開された沖縄が舞台の映画「遠いところ」を観て、デニー知事が頑張っても、政治は困っている人を救うまでには至っていないのだなと思い知った。
 万が一、基地問題が解決しても、貧困は残るし、成人式で暴れる若者たちの刹那的な精神性も残るだろう。そして基地問題は、万が一にも解決しない。それは本土の有権者がそれを望んでいるからだ。

 一度だけ民主党が政権を取り、鳩山首相が沖縄の基地について「最低でも県外」を主張したことがあった。しかし官僚たちが、偽の資料を大量に用意して鳩山に断念させたと、鳩山自身が後に語っている。官僚たちは政権交代をさせた国民の意向を踏みにじった訳だ。それは官僚たちの前例踏襲主義と、自分たちの間違いを認めない狭量と、自分たちの立場と権益を守る保身によるものだ。アメリカのように政権が交代したらホワイトハウスをはじめとする官僚たちを全部交代させるくらいでないと、政策のドラスティックな転換は望めない。

 官僚に抵抗されて外務大臣の田中真紀子が吠えたことがある。「外務省は伏魔殿だ」と彼女は言った。官僚たちを伏魔殿に跋扈する魑魅魍魎たちと同じだと喝破したのだが、小泉純一郎がすかさず彼女を更迭して、女性のヒステリックなわめきという印象に変えてしまった。そして田中真紀子は力を失った。

 官僚たちはなかなか変わらないが、その多くは東大卒といった頭脳明晰な連中である。不安と恐怖に囚われて政策を変えることができないでいるが、選挙で何度も政権交代が起きれば、次第に慣れてくる。米軍基地NOという政権が何度も誕生すれば、さすがの蒙昧な官僚たちも、事務処理を変更せざるを得ない。民主主義は手続きだから、事務処理が変更されてはじめて、政権交代が実現する。
 有権者はそれが分かっていないから、部分的な印象だけで民主党政権はだめだったと思っている。しかし経済データ等を並べれば、安倍、菅、岸田政権よりも遥かにマシだったことが分かる。自分で考えない有権者は、沖縄を地獄に突き落とし続ける。日本の民主主義は沖縄では実現せず、日本国憲法は無視され続けるだろう。しかし本土の有権者に責任の自覚はない。
 デニーさん、勝って兜の緒を締めよ。踊っている場合じゃありませんよ。
耶馬英彦

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