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シン・ちむどんどんのotomisanのレビュー・感想・評価

シン・ちむどんどん(2023年製作の映画)
1.0
 「シン」が何事か全編通じてさっぱり分からない。罪、深、芯、真、心、神、死ん、辛、新、当て字ならほかにも幾らでも当てがあるが、どれがD&Pの狙う「シン」だろう?観衆に委ねるとは思わせぶりが片腹痛い。浅はかな現地取材を反省して、も一度「知むどんどん」に向き合う事を期待したい。

 当の「ちむどんどん」であるが、驚くほどの不評の山。ネット上には観衆らによる非難の会「反省会」まで嫌味たっぷりにぶつけられている。
 寄せられた記事は関係者一同死ねよ、とばかりのものまであってこのエネルギーを回収できればカタルシスな資源化でこころも清らになるだろう。手塚治虫も昔、「苦情銀行」というのを書いているが、喪黒福造めいた人物から通帳ならぬテリー伊藤風の人形を受け取り、こいつに言いたい放題悪態を吐けば本人はスッキリ、悪心エネルギーがオンラインで貯蓄されるという塩梅で、本人認証不要だから誰でも貯蓄し放題とはいえ、その人形が世界に一体しかない不便が不思議(それを不便と称し量産頒布を目論む政治的意図が働きだす辺り現代的で、そこからが明暗の分かれるところ)かつ利息分配と引き出しも不能なのは何故か?というワケだ。

 ところで、大人げないほどのそれら非難の声にも感じるところがあって、私も幾たびか断続的にドラマを見ることがあり、その都度主人公一家をはじめとする登場各人への奇妙な不快感が募りその度に遠ざけてしまった。朝っぱらからあんな連中に心乱されてはたまったものではないのは同感だ。
 ただ、それを半年も放送してしまうからにはNHKほか関係者にも相当の決心があったはずであり、悪口雑言も覚悟の上の事だったに違いない。
 すると、ネット反省会に対してそれを諫める論陣が生まれていて、たとえば1945年の沖縄戦当時の思い出が綴られる回の演者、仲間(沖縄人)や草刈(日米混血者)に戦時の回想を語らせた事への評価が寄せられていたりする。
 しかし嫌われ続けた挙句、終わりも間近になって元々どうしたかったのだろう、それともなんの取り繕いなのか。どんな覚悟で始めたにせよ、返還半世紀の節目というのに、沖縄人をどこか現代社会の心的病者のように戯画化したと悪意で捉えられかねない設えに、こちとら大和んちゅでさえ苛立ちとともに公共放送人の真意の推し量り難いこころの不気味さを覚えるのだ。

 それを沖縄人は、那覇辺りの言葉とも違うやんばるの言葉に親しみを覚えるなどと悠長な好評を語るデニー玉城氏に違和感を禁じ得ん。ドラマを見たかどうかを以って政治姿勢を推し量るというのも見当外れ、あのドラマへの感想の著しい振れ幅と結果、観衆に芽生えた悪心の激しさ、元となった制作陣の意図の不可解さの全てが、あれを生んだ東京とその周辺人の政治的社会的辺境沖縄への感情の異様さの証拠であるまいか?と恐れるところがないのだろうか?
 もっともこの「辺境」といえば稼ぎが悪くなって30年の日本自体の決心の鈍さ、奮起や企ての乏しさ、学芸の不振など、日本全体が世界の辺境に弾かれつつあるような気もする。そんな大和世界にからかわれていいわけがないだろう?だから、沖縄はもっと怒るべきだが、その怒り様には能々考えを巡らせる必要がある。かつての琉球外交が舞楽などのもてなしで活路を付けたような「怒りの毒の用い方」に長けるべきだ。
 その点、選挙に毒する芸人D&Pの出張は何か役に立つだろうか?選挙の上っ面を撫でて佐喜眞候補の素地を垣間見せた辺りはいいが、それ止まりでは寂しい。玉城も玉城、本人も戦後沖縄で苦労しただろうにあんなおちゃらけドラマをかまされてNHKの毒を制する毒な言葉を生み出せもせずに自分もおちゃらけの尻馬に乗ってるなら、いつまでたっても反基地が梃子の補助金ねだりと中央政府愛好者から憎まれ口をたたかれ続ける事だろう。NHKの毒っぽいドラマもそんな気分の染み出しに発するのじゃあないか?なお、ほかの二候補についてはすべて論外である。

 とは言ったものの玉城氏の基地反対姿勢も起きて当然だ。ただし、日本全体として周辺全世界はそれこそ中露鮮台韓と政治的経緯的に腫物だらけで米国の属国と言われようと「占領地日本」以来こうして生かされ続けて来た末の今の事である、そう簡単にひっくりかえせるはずがない。
 ミサイルの射程内であろうと沖縄の基地は動くまい、琉球はもとより最前線であり、動かしたらその周辺地域すべても動き、朝鮮半島や台湾はもちろん琉球自体も揺動させられどうなるだろう?そもそも世界を新たに二分することになるだろう米中関係はどんな局面に立っているか?それを沖縄の意志が左右し得ると思うのなら、どんな外交力資源、人材か民意か、何かがあるつもりか?大体、議会さえ持ち得ない中国が米国よりそんなにありがたいだろうか?核兵器もそんなやすやすと使える代物と想像するか?
 他方、玉城氏に中共からの応援があるとしても誰が驚こう?また、使える加勢は使えばいいが付けこまれる隙を封じる冷酷さや周到さがある限り、かつ、ぼったくられた相手の怒りにも平然としていられる鉄面皮である限りだろう。
 相手のそれも明日明後日のバックを期待しての事ではない、常に一定の苛立ちを日米両政府に感じさせ、離反なら琉球一体を意識させる続ける事がいつか何かの役に立つと心得ての事だろう。それが独立などの方に向かうとしても支援国中国との距離をどう保ち、日米と向かい合うのか?ちなみに中露ならそれでも切り札、外交資源は核兵器保有と言ってはばかるまい。しかし、それを彼らが許さないのは日米と同じである。
 なお、沖縄的核兵器と言っても立派な核分裂ではあるまい。「博士の異常な愛情」的な世界を死滅させる全滅兵器で全大国の如何なる手出しも拒む辛辣な自動起爆が中立を保証してくれる。世界一美しい琉球に世界最悪な人類への脅迫が置かれる想像は「ちむどんどん」の毒も可愛げにするだろう。

 まったく、態よく芸のネタにされた選挙だが、D&Pの芸も今一つだった。沖縄について知るつもりなら彼らを追うより一年二年ほどテレビの関係番組を丹念に追えばいいし、NHKのアーカイブをかき回すのもいい。あたりまえだが関係書籍も山ほど出ている。少しは金を使わないと爛れた日常に変化は訪れまい。
 ところで芸と言えば、「ひろゆき」という人物もまた巧みなようで、辺野古基地造成反対のピケで無人となった時間帯を狙って押しかけ、誰もいませーんと驚いて見せたと聞くが、D&Pよりも芸達者というべきだろう。
 下らない話で呆れるが為として発信したなら揚げ足取り「芸」の域を超えた事だ。悪意とはあのように用いるべきで、D&Pに欠けた毒をふんだんに盛った結果が30万いいね?もっと増えたのか?しかし、あれこれ言っても一億の中のやっと30万である。県知事選の玉城氏の得票といい勝負ではあろうが、沖縄からの「よくないね」の数を想像できるだろうか?笑止。


 評価について、結構面白かったので3点といいたいが、それではさっぱりアピールしないから初の1点評価にしよう。これも毒の使い方だ。
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