たく

プリシラのたくのレビュー・感想・評価

プリシラ(2023年製作の映画)
3.7
14歳でエルヴィス・プレスリーに見初められたプリシラの愛の遍歴を描いてて、ケイリー・スピーニーが本当に14歳みたく思える冒頭に、プレスリーがロリコンにしか見えない危うさが漂ってハラハラした。ソフィア・コッポラ監督作を観るのは「SOMEWHERE」以来で、年の離れた男性に愛される少女という話に相変わらずのファザコン気質を感じた。プリシラの繊細な心の動きを捉えた映像が印象的な反面、プレスリーの描き方が単調で退屈さも感じた(「Saltburn」が記憶に新しいジェイコブ・エロルディの本人に寄せた演技はなかなか良かった)。

冒頭で、裸足からハイヒールを履いていく少女の脚の映像のバックにドヴォルザーク「新世界より」の第二楽章がチラッと流れるのは、平凡な生活から新しい世界へ羽ばたくプリシラを暗示してるのかなと思った。両親と共に西ドイツに住む14歳の彼女を、同地に兵役で赴任してたプレスリーがある日偶然見かけ、恋してしまう展開が性急すぎて戸惑う。プリシラが誰もが憧れる大スターのプレスリーからの求愛を嫌がるはずもなく、たちまち舞い上がるのがわかりやす過ぎるほど表情に出てた。

兵役を終えてアメリカに帰るプレスリーから「自分には君しかいない」と言われるプリシラが、その言葉を信じてまた会える日をひたすら待つ展開になり、ここからプレスリーに心を支配された彼女の苦しみが始まっていくのが観てて辛い。彼女がプレスリーとの付き合いを深めるに従って外見が派手になっていき、学校で完全に浮いた存在になるのが彼女の孤独を象徴する。プレスリーは本当にプリシラのことを愛してるように見えるんだけど、大スターとして多忙な日々の中、女性との絶えない噂がプリシラを悩ませ続けて、それを一人称視点で見せていくことで観客が彼女の気持ちを共有する作りになってた。

プレスリーが時に癇癪を起こすのが怖くて、相手に暴力を振るった後ですぐに謝るDV男の典型みたいだったね。彼が啓蒙本に傾倒していき、信仰する本をプリシラに読み聞かせる時に姿勢を正すよう強要するのがゾッとした。そんな危うい関係の果てに、ちゃんと結婚して子どもも生まれるのがちょっと意外だった。次第に薬漬けになっていくプレスリーとの関係がどうにも修復不能となり、ようやく見切りをつけるプリシラにかつてのケバケバしさはなく、彼のもとを去る姿に逞しさを感じる。でもバックに流れる歌は”I WILL ALWAYS LOVE YOU”(ホイットニー・ヒューストンがカバーした元歌)で、まだプレスリーに対する愛が残ってることを示してて切ない(たぶんソフィア・コッポラの主観)。プレスリーの心の闇があまり描かれないのは、プリシラの一人称視点という構成上まあしょうがないよね。
たく

たく