たく

システム・クラッシャー/システム・クラッシャー 家に帰りたいのたくのレビュー・感想・評価

3.8
幼少期のトラウマから暴力衝動を抑えられなくなった少女を描いてて、快方に向かうかと思えば症状再発を繰り返すベニーにやるせ無くなった。彼女を支えようとする周囲の努力が涙ぐましい一方で、ベニーを恐れて引き取らない母親のダメさ加減に腹が立つ。ベニーを演じたヘレナ・ゼンゲルの予想のつかない感情の起伏が圧倒的で、本作出演後に「この茫漠たる荒野で」でハリウッドデビューを果たしてたんだね。そういえば同作でも粗暴な少女役だった。

タイトルは、手の付けられない暴力的な振る舞いによって施設を転々とする子どもを指すスラング。冒頭で全身アザだらけの身体で検査を受けてるベニーが、一見男の子かと思えば女性で、彼女が本名のバーナデットを嫌ってベニーを自称してるところに性自認の問題を抱えてるのかと思ったら、そうではないらしい。ベニーは何より母親との暮らしを望んでるのに、父親から受けたトラウマから暴力衝動を抑えられず、母の自宅にいるチンピラみたいな新恋人を見て暴力が発動するシーンで、早くもこの母娘の同居は叶わないと思わせる。

ベニーが最初は嫌ってた通学付き添い役のミヒャにだんだん懐いていくのが見どころで、今まで誰も踏み込めなかったベニーの閉じた心をミヒャが解放するかというプロとしての手腕が問われるのがスリリング。彼が奥の手としての山小屋プログラムの流れから自宅に泊めてしまう逸脱行為をするところから、ベニーのミヒャに対する依存が始まるのが不穏。ここでミヒャが引き気味になるところでやっぱり男は薄情かと思ったところで、最後まで見捨てないところに男気を感じた。

本作は、冒頭の荒れ狂う少女が次第に人間らしさを獲得していく話を期待させて、確かに映像的には小汚いベニーがだんだん少女らしく透明感を得ていくんだけど、やっぱり人の本質は変えられないという難しいテーマを提示してた。おそらくベニーの一番楽しかった思い出の山小屋生活が、フクロウと番犬として再現されるのが母親の幻想と共に彼女の死を予感させる。ケニア行きを承諾したかに見えたベニーが空港のピーカンの青空のなかで羽ばたくひび割れの幕切れは、彼女の魂の真の解放を表してるようで悲しくもジーンと来た。
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