いち麦

プリシラのいち麦のネタバレレビュー・内容・結末

プリシラ(2023年製作の映画)
3.0

このレビューはネタバレを含みます

当時24歳の世界的大スターと一ファンでしかない14歳女子学生から始まった恋愛は、案の定、対等というには程遠い歪な関係だった。見ていて気持ちの良いものではない。
エルヴィスがこれほどプリシラをコントロールし支配したかったのは、彼の思い通りにならないショー・ビジネスでの不満や鬱積、家庭環境に寄るものだろうと窺えてとても興味深い。多分、成熟した大人の女性との間では彼の支配欲が満たされることは決してなく直ぐに破局に至ったからではないかと度々のゴシップ・ネタが挙がる場面を見ながら想像した。
特に面白いと思ったのは、プリシラからの求めにも応じずエルヴィスが長らく彼女と肉体関係を持とうとしなかったことだ(真偽は定かではないが少なくとも映画ではそう描かれていた)。思うにこれは一度寝てしまうと大スターである自分に対しても対等な男女関係をプリシラが要求するようになるだろうと、既に若くしてエルヴィスは自分の女性経験から考えたからではないだろうか。

…とまぁ描かれるプリシラの淋しさよりも、その奥に透けて見えるエルヴィスのエゴイスティックな人物像について考えさせられる作品に感じてしまった。この意味でバズ・ラーマン監督作「エルヴィス」を補完してくれてはいるけれど。あくまでタイトル通りプリシラを主人公に据えプリシラの物語を描くのであれば、大スターと別れた時点で物語を閉じず、寧ろその後の彼女の人生(それが例えどんな人生であれ)までしっかり描いて見せるべきだったのではないかな。原作者であり製作総指揮にも名を連ねるご本人のご都合のようにも思えてしまう。彼女の結婚人生で色々と描かれていない部分があるのもそういうことかも。

注目のジェイコブ・エロルディの演技が見られたのは嬉しかったが、正直言って 「Saltburn」での彼の方が存在感たっぷりだった。エルヴィスに似せるために個性的な魅力が潰れているのだろう。
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