Kaji

グリーンフィッシュ 4K レストアのKajiのレビュー・感想・評価

4.2
ずっと観れていなかったイチャンドン監督のデビュー作。
この度回顧レストアで見ることができて嬉しい。

やはりイチャンドン監督が描き出すヒューマニズムにはアイロニーと慈愛があり、少年性への憧憬があり鑑賞後に何度も反芻する。

スポンサー説得のためノワールジャンルでの売り込みをしたそうなんだけど、この作品のマクトンという粗忽な青年がたどるアンハッピーエンドと家族が歩んでいる日常、都市開発での新住民・旧来から住んでる人々との格差、差別、社会の昼と夜が鮮やかだ。
卵トラックのチョンジニョン兄とのユーモラスなカーチェイスは、どこか清々しくて好き。
警察のちょろまかしを追うカーチェイスだけど、あんなに牧歌的なカーチェイスは韓国映画では珍しい。あえての演出が冴えてる。
このシーンで権力の外を描きます、っと宣言を受けたような気になった。
思わず「声もなく」を思い出して後輩への影響を思ったし、街を行商する仕事が今では随分減ったなと懐かしさもあった。
日本では豆腐売りのパーフーって音や物干し竿のがありましたね。

あの一家の兄弟の多さにも時代を感じる。韓国には堕胎罪があった。父親がいないのはベトナム戦争を匂わせる。

監督作の中でよく登場しているのが「大木」だと思う。
今作では庭の柳、オアシスでは窓から影を落とす木、ポエトリーでは木の下に主人公がいつも腰掛けている。
泰然自若と風に揺れながら、人の営みを観察している目線はあの木々からの視点ではないかと思ったり。
鏡もよく出てくる。「顔を映す」以外でも鏡はずっと何かを映している。


何かトリビアめいたものしか書いていませんが、マクトンが最後の凶行を行ったことは彼が兵役後まもない青年だったことを抜きに考えられずにいますが私には真相が難しく、どういう心理や思考回路だったんだろうと思いながら、自らの成功体験と権力で命令を言葉にしない顔役のいやらしさに辟易としました。辛すぎる。

ラストシーンで取り返しのつかないことに気づくのも遅すぎますよね。
でも、最後にマクトンを忘れない人がいるっていうのは救いでもありました。
Kaji

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