netfilms

ダム・マネー ウォール街を狙え!のnetfilmsのレビュー・感想・評価

3.8
 株式投資や資産運用をしたことがある人にはいかにも真っ当な神の采配で、勝者と敗者の差は紙一重というかヒューマン・エラーのレベルなのだが、得てして資産を分散し手堅く行こうとすればするほど当たり前のリターンしか得られない。人生というのは売りと買いの欲望のバランスで成り立っており、全ての取捨選択というのは損切りのタイミングこそが生命線なのだ。オリバー・ストーンの『ウォール街』で描かれた紙切れだけの幻想の時代と物質消費社会の限界という主題は、マーティン・スコセージの『アフター・アワーズ』も同様に夢遊病的で、バーチャルな数字のやりとりに一喜一憂するエリートのヤッピーを痛烈に皮肉ってもいた。その億万長者の空っぽの心と物質消費社会への痛みのない夢遊病的な感覚を21世紀にもモチーフにしているのが他でもないデヴィッド・フィンチャーで、クローネンバーグの『コズモポリス』にも通底するどんなにお金を儲けたところで、必ずしも人は幸せに離れないという極めて哲学的な問いの実践をクレイグ・ギレスピーは今作で試みる。

 然しながらかつて傑作『ラースと、その彼女』を生み出したクレイグ・ギレスピーの方法論が、アダム・マッケイの『マネー・ショート 華麗なる大逆転』と同じようなルックで描かれることに端的に言って疑問を持った。コロナ禍の2020年、アメリカ・マサチューセッツ州。平凡な会社員キース・ギルを『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』や『プリズナーズ』のポール・ダノが演じるという目論みそのものがハリウッド的で、こういう意味不明で奇妙奇天烈な変態君が個人投資家たちを焚きつけ、既に前時代的なウォール街を牛耳る悪辣な大手ヘッジファンドに一泡吹かせる辺りが痛快な金融逆転劇なのだが、クレイグ・ギレスピーはキース・ギル(ポール・ダノ)の日常にフォーカスしようとせず、当時のニュース映像と多くの投資家たちのキース・ギルを巡る狂熱とを、ただただひたすらにアッパーな映像で紡ぐのだから。『難波金融伝・ミナミの帝王』や『闇金ウシジマくん』がひたすら痛快なのはお金に憑りつかれ、魂を抜かれた人間の転落劇をわかり易い人間ドラマで描くからであり、今作でも実話ベースの物語はあらかじめアッパーな結末を迎えるのは百も承知なのだが、映像の羅列の仕草があまりにも凡庸で、再現VTRの域を出ない。我々の一喜一憂の要因は資産の上昇や下落のような数字に纏わるやりとりで、決して劇中の登場人物たちの演技ではないところに、今作には決定的に映画の根源的な欲望が欠けているように感じる。これはThe White Stripesの『Seven Nation Army』が掛かりそうなアッパー具合だと思ったら、本当に掛かって笑った。
netfilms

netfilms