Jun潤

ChimeのJun潤のレビュー・感想・評価

Chime(2024年製作の映画)
4.0
2024.08.25

黒沢清監督作品。
公開するまで存在すら知りませんでしたが、黒沢監督×菅田将暉主演の『Cloud』も控えていることですし滑り込みで今回鑑賞です。
事前情報を全然入れてないので急なビックリ系のホラーではないことだけを願って……。

料理教室の講師として働く松岡。
教室の生徒の中には、少し要領の悪い、田代がいた。
田代は頭の中で鳴り響くチャイムの音から気を紛らわすために教室に通っているという謎の言動をするが、松岡は特に気にも留めない。
後日田代は、チャイムの正体は自分の頭の中にある機械が原因と言い出し、驚愕の行動に出る。
さらに後日、菱田という女性が教室に通い始めるも、松岡の言うことも聞かず料理をしようとしない。
そんな彼女に対して、松岡もまた驚愕の行動に出る。
果たして彼らを巣食う恐怖の正体はー。

これはまた…奇作怪作……。
何か起こりそうなのに何も起こらない。
何かが起きたはずなのに何も見せてくれない。
ホラーという、見せることで恐怖を演出するジャンルを逆手に取ったような、何も起きていない、何かが起きたはずなのに何も観えない場面に恐怖を演出するある意味問題作。

もはやストーリー上で何も無くてもカメラワークや音からまず恐ろしい。
肝心なところを全然見せてくれない画角かと思いきや、固定されずにカメラがちょっとずつゆらゆら動いてる。
突然訪れる静寂、騒がしい場所でもないのにかき鳴らされる異音。
何か出ると思わせて何も出さない場面転換。
効いている冷房、おそらく満員の劇場内、だけどやたらと出てくるあの汗は暑さによるものではない違う何か。

ストーリーとしては、田代や松岡がそれまでの行動とは全く異なる驚きの行動に出るわけですが、それ以外には、事務員の女性が目にした“何か”、やたらと溜まる松岡家の空き缶、事件を追う刑事と、既に何かが起きていそうだけど何も見せない、これから何か起きそうな気配を醸してるけど何も起きない。
せめて何か起きてくれと、ビックリ系でもいいからこの言い知れぬ恐怖の正体を明かしてくれと思わせてくる、黒沢監督節全開のぞくぞく具合。

田代の頭の中に響いていたというチャイム。
本当に少ない描写の中で考察するしかないのですが、個人的な見解としては、誰の頭にも響いているようなものだったんだと思います。
ストレスのような明らかなものから、どこからともなく滲み出てくる根源的なものまで。
その音を、菱田は理論的な言動で、松岡は料理論で、松岡の妻は空き缶を潰すことで、松岡の息子はヘッドホンで、とある男は衝動的な行動でかき消そうとする。
しかしかき消しきれなかった者の前には“何か”が現れる。
ほらどこからともなくチャイムの音が……なーんて。

印象に残ったのは松岡の菱田に対する行動ですね。
衝動的なのか計画的なのか、本能的なのか理性的なのか、何か考えがあってのものなのか、あるいは何も考えていないのか。
何か不気味なことや不思議なことを考えている人よりも、何も考えていない人の方が怖いのではないかと思わせてくる描写だったと思います。
Jun潤

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