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ほかげの消費者のレビュー・感想・評価

ほかげ(2023年製作の映画)
3.9
・ジャンル
戦争/ドラマ

・あらすじ
舞台は戦後間も無い闇市
体と引き換えに優しそうな男の援助を受け暮らす未亡人の女は1人で売春宿を営み生計を立てていた
そこに復員兵の青年と野菜泥棒の戦争孤児が客として転がり込んでくる
金を作って必ず払うと言いつつツケが続く復員兵、面倒見の良い彼と女に懐いていく戦争孤児
擬似的な家族の様な暮らしに女は失われたかつての日々を重ねていたが近所の銃声に復員兵がフラッシュバックを起こした事から束の間の幸せは徐々に崩れていき…

・感想
「野火」、「斬、」に続き塚本晋也監督が手掛けた殺生を軸とする実質の三部作の最終作
今作は戦争が人々に残した傷に焦点を当てた内容となっている

戦後間も無くの困窮した世の中で弱さを隠し逞しく生きる事を強いられる者達が抱える傷、それに蝕まれまいと尊厳を守ろうと抗う心、善意を装い貧しさに漬け込む者の存在…
そんな絶望的な世界を描きながらも女が戦争孤児の少年に人間として正しく生きる事を必死に託す様は戦争や悪へのアンチテーゼであり、その影響を特に強く受ける弱者達へのエールでもある

いつの時代も追い込まれた状況下で尊厳を守り生きていく事は時として難しくなってしまう
景気が悪化し続け、政府もそれを是正しようとしない現代日本もそれは同じ
だからこそ普遍的な希望として本作のメッセージは響く物があった
私利私欲で生きる事を推進するネオリベ的な社会で自分を守る事と他者の為に生きる事は重なり得ると示す物語は泥臭くも美しかった
現実ではそうある事は難しいからこそ意義のある一作だったと思う
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