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パラドクスの消費者のレビュー・感想・評価

パラドクス(2014年製作の映画)
4.3
・ジャンル
シチュエーションスリラー/ループ

・あらすじ
兄カルロスとの犯罪を脅され自白してしまった青年オリヴェルと彼らを逮捕しにやって来た刑事マルコ
妻サンドラとその連れ子である兄ダニエルと妹カミーラを実父の元へ送っていた継父ロベルト
時代も居場所も異なる両者は共に突如起きた爆発を契機にそれぞれのいた空間に閉じ込められてしまう
行けども行けども繰り返す同じ景色、消えた自分達以外の人々
当初は夢か幻覚と疑っていたその異常現象は彼らを長きに渡り閉じ込め続け…

・感想
最近だと話題作「イビルアイ」の監督も務めたアイザック・エスバンのデビュー作
景色だけでなくその時そこにあった物も新しく現れ続けるという独特なループ物となっている
以前から気になっていたので鑑賞

前半まではシンプルにループ物らしい緊迫感と閉塞感に満ちた王道とも言える内容が続いていくが時の経った後の描かれ方が停滞による諦念のもたらす空虚な日々を淡々と且つ生々しくなっており、特にマンションの非常階段に閉じ込められたオリヴェルとマルコに関しては無限増殖するインスタント麺などを無心で貪り飲み終えた水のペットボトルに排便と排尿を行うという現象の生んだ最悪な暮らしをしっかり見せてくれる点が不快描写好きとしては嬉しい

ハイウェイに閉じ込められた一家も若干ベクトルの違う最悪さとして認知症を患い要介護状態となったサンドラとロベルトのセックスは老いても性欲という業から解放されないという描写からこの暮らしが日常と化してしまった事や欲の解消さえもルーティンと化している恐ろしさが伺え不快なだけでなく巧みさが感じられる

そういった克明に描かれた悪夢の様な日々から両者の意外な繋がりの判明へと展開
見えていなかった新たなループが露わとなる終盤から結末にかけてはあまり見た事のないおぞましいファンタジー性と社会風刺を両立する事で考察を捗らせる複雑さを見せていく

本作で描かれた様な現象は当然の事ながら現実には起きえない
その一方でそのファンタジー的な現象を介して描かれる人間や社会の歪さや特性、現実などはリアリズム系の作品では捉えづらい抽象的な感情や思考の表現として一定のリアルさも成立させていて、虚実のバランス感覚として個人的に面白く感じた

前述の風刺の対象となっているのは自分の解釈としては大量消費やベーシックインカム、社会に与えられる役割とそれに伴い人生が他者の為の物と化して曖昧となっていく自己認識、失われた自己決定権、そして人間と社会両方による同じ失敗の繰り返し
…といった所であろう
他にも宗教絡みの要素等もあるかもしれないが自分が考えられたのはこの範囲まで

複雑且つ巧妙に、そして生々しく時に露悪的に描かれる人間の醜さ
悪趣味や鬱が好きな人にも考察好きにもどこかしら刺さる部分があるであろう良作
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