にゃーめん

ナポレオンのにゃーめんのレビュー・感想・評価

ナポレオン(2023年製作の映画)
3.8
「新解釈・ナポレオン」

ナポレオンというと、世界史を専攻していなくても、"勇敢"、"英雄"などの言葉がイメージとして思い浮かぶが、リドリー・スコット監督の描いたナポレオンは、どうもそういったメジャーなイメージからズレたナポレオンのように感じた。

ナポレオンの自画像といえば、後ろ脚で立つ白馬にまたがり精悍な眼差しで天を指差すナポレオンの絵を思い浮かべるが、そういった絵から想像するナポレオンをイメージしたまま映画を観ると、おやおやおや…?というエピソードが多く、監督の思い描くナポレオンの方が、史実に近かったのかもしれない。

(実際、前述したナポレオンの自画像(『サン=ベルナール峠を越えるボナパルト』(1801)はかな〜〜り"盛って"描かれており、実際ナポレオンは小太りで背の低い容貌だったらしい。)

そんな背が低くて小太りの冴えない1人の男がどうして数々の戦績を収め、皇帝にまで登りつめることができたのか。

それは妻、ジョゼフィーヌの存在があったからであるという描き方が面白い。
ヴァネッサ・カービー演じるジョゼフィーヌはファーストシーンから目を惹く妖艶な魅力にあふれており、ナポレオンが一目惚れして目を離す事ができないほど。
浮気されてもナポレオンがベタ惚れしていて離さなかったのも納得なハマり役であった。
ジョゼフィーヌに甘えるナポレオンのなんとも言えないキモさ!これはホワキンの持ち味の一つだろう(褒めています)

ジョゼフィーヌの視点で見ると、姑からの無言の男産めプレッシャーに耐え続け、子供が授からないまま15年も婚姻関係を続けていたというエピソードは、同性としては大変胸が苦しくなった。

「最後の決闘裁判」でも描かれていたように、夫は戦争に明け暮れ何ヶ月も帰ってこず、無事に帰ってきたと思ったら愛のないセックスを求められ、子供を産めないと無能扱いされるという当時の女性の心の虚しさにも触れていて、歴史の裏で虐げられてきた女性性について今作でも取り上げたのは評価したい。

そしてやはり特筆すべきは、合戦シーン。さすがのリドリー・スコット監督の手腕が光まくっており、クライマックスの「ワーテルローの戦い」のイギリス軍との戦いの見せ方は圧巻。

淡々とした合戦シーンを繰り返し描く事で、何百万もの兵士が使い捨てられ無惨に戦場に散っていく様は、今も昔も変わらない事に、改めて愕然とする。
時代が進んで、馬が戦車に変わり、大砲がミサイルに変わっただけである…。

一番印象的だったのは、絵画にも描かれた"戴冠式"のシーン。美術、衣装の豪華絢爛さにクラクラした。
アカデミー賞候補となるのは間違いないだろう。

予告やポスターでは、ナポレオンは「英雄か?悪魔か?」というコピーが使われているが、敵国だけでなく、自国の市井の人々にも大砲の弾を平然と浴びせたりした事を考えると結局どちらでもなく、交戦的であるが故に、戦いの中にしか自らのアイデンティティを見出せなかった人なのではと思う。

フランスとヨーロッパ諸国、イギリス、ロシアとの関係性等は、少し予習が必要だが、世界史の勉強にもなるので学生さんは一見の価値ありかと思う。
にゃーめん

にゃーめん