根岸

ナポレオンの根岸のレビュー・感想・評価

ナポレオン(2023年製作の映画)
4.0
鑑賞直後の感想をつらつらと。

個人的な視点と歴史的な視点が混ざり合い、とてもスリリングな作品だったと思う。
「個々人の行いが歴史を作る」とはよく言われるが、絶大な権力を持つ人間が歴史に与える影響は市政の人々の比ではない。しかし、彼らは大衆と同じように弱さや脆さを有するただの人間である。そんな人間が歴史を変えうる決断を下し続けると、どのようなことが起こるか。
要するに「しょーもない人間が権力を持ってしょーもない感情からしょーもない決断を下したら途方もない犠牲が生まれる」という話なんだけど、「だから人類は愚か」というような短絡的な内容ではない。
もちろん人間には尊厳も、崇高さも、切実さ故の美しさもあり、この映画でもそのことがよく描かれていると思う。
だがそれらの価値は人間が本質的には弱いからこそ尊ばれているもので、人類の歴史はその弱さ故の失敗の繰り返しであり、歴史を追うごとに一人の人間の弱さがもたらす犠牲は増えていく。
そういうことを思いました。

あとは細かい点についての感想メモです。

人間が仲間意識や愛や恐怖により失敗し、結果大惨事を引き起こす話として、なんとなく『エイリアン:コヴェナント』との共通点を感じながら観ていた。そのせいか、ホアキン・フェニックス演じるナポレオンの顔が、『コヴェナント』のオラム船長(ビリー・クルーダップ)のように見える瞬間が何度かあった。

群衆の描き方には圧倒されっぱなしだった。迫力があるだけじゃない。とても広い視野で、敵味方入り乱れる戦場を見せているのに、個々の人物が群れの中に埋没することなく際立っていると感じた。
その映像の積み重ねがあるからこそ、最後に示される死者数が心に響くのだと思う。

そしてこれはもう言うまでもないが、映像の隅々まで制作者の美意識が行き届いており、それを眺めているだけでも楽しい時間だった。

印象的な場面は白馬の顔が並ぶカットと、ワーテルローの戦いで「フランス軍の勇姿を見よ!」みたいなこと叫びながら戦っていたのに、ナポレオンが撤退していくのを見て「信じられない」っていう顔をしていた将校の人。(彼は突撃直前にナポレオンの隣に控えていて、死地へ突っ込む覚悟を決めたような表情を見せている)
割と最初の作戦から描かれていた、ナポレオンの頼りなさがダメ押しで決まっているのもよかった。

もちろん音楽も良かった。劇伴はもちろん、「音楽」の描かれ方も印象に残る。戴冠式でやけにノリノリで楽しそうな指揮者。凍える森で絶望を感じながらも笛を吹く兵士。戦場でドラムを叩き続け、大砲に吹き飛ばされる鼓笛隊など。(最後のものは兵士へ指令を伝達するための太鼓だと思うが)

あと理由はわからないがやたら犬がよく出てくる。当時の文化の再現だろうか。
根岸

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