ベルベー

ナポレオンのベルベーのネタバレレビュー・内容・結末

ナポレオン(2023年製作の映画)
3.7

このレビューはネタバレを含みます

ナポレオン。王様になろうとしてなりきれなかった哀れな小男。それ故に破滅したが、しかしそれ故に愛されたし、救われた部分もあるかもしれない。結局どっちがこの男に取って幸せだったのだろうな、と思いを馳せる映画だった。

初っ端からマリー・アントワネットの処刑というのが実にリドリー・スコットらしい。まず人類の愚かさ、残虐さを見せるところから始まる映画。今回もリドスコは神様気取りだぜ、と安心。リドスコが神様気取りの時は面白いからね!「エイリアン:コヴェナント」?聞こえないなあ…。兎も角、人類の残虐さが顕になったフランス革命の時代、野心を持った1人の男がいた、というところから始まるこのお話。

しかし本作でのナポレオン、野心は持っているし才もあるがビビリのマザコンなのである。最初の戦闘シーン、声も体も震えまくってるナポレオンにズッコケる。そりゃ普通そうなるだろという地獄絵図が展開されているわけだが、「英雄」と称するにはアレな立ち振る舞い。そしてここで見せた彼の本質は、最期まで変わらないことが示されていく。

時代の変化と合致して、どんどん出世していくナポレオン。じゃあ人間的にもどんどん成長するのかといえば、勿論そうではない。未亡人に一目惚れして尻に敷かれてご満悦。本人ご満悦だけど、同じくらいの幸せをジョセフィーヌにもたらしているかというと全然そうではないのが気の毒。チ◯コも小さいんだろうなあ…。気の毒。ナポレオンを挑発したジョセフィーヌも悪いけどさ。速攻で不倫してるし。

ところが、ナポレオンと一緒になって全然楽しそうじゃないこのジョセフィーヌ、ナポレオンを捨てるのかと思いきやそうではない。嫌そうな顔しつつ、駄々をこねるガキみたいなナポレオンの相手をしてやり続けるのである。ナポレオンが超絶権力者だから…だけが理由ではないことは、死の間際まで追放された彼を心配していたことから分かる。どういうことだろう。

「憎めない男」ーこれこそが(史実がどうかは知らんけど少なくともこの映画に於ける)ナポレオンの本質で、愛された理由で、同時に本人含めた多くの人々を不幸にしてしまった理由ではないか。ナポレオン、絶妙に憎めないのだ。彼の行いから悪意を感じ取ることができない。子供が産めなくて離縁したジョセフィーヌにウキウキで「俺の子供〜可愛いでしょ〜!」って見せてくるなんてクソ野郎も良いところだけど、悪意がないから憎むことができない。だからジョセフィーヌは傷つきながらも彼を捨てることができない。

同じことはフランス国民にも言える。さんざっぱらナポレオンを馬鹿にして追放もして、でもマリー・アントワネットやロベスピエールほか多くの者達と違いギロチンにかけられずに済んだのは、彼本人が憎めない男だと、大衆に見透かされていたからではないか。だからナポレオンは、彼の理想の「王」「皇帝」にはなれなかった。しかし、なれなかったからこそ血生臭い時代に於いて、そこまで血生臭くない最期を迎えることができたのでは。

一方で、確実に優秀だが実は臆病者で、正直王の器ではないナポレオンがあの地位に就いてしまったから、そして失敗しても何となく許されてしまったからこその戦死者300万人。その残酷な真実を、エンドロール直前のクレジットで突き付けるリドリー・スコット。安定のリドリー・スコットである。「多少なりともこの男に共感しちゃったか?同情しちゃったか?でもこいつの行いはこういうことだぞ?」って。

実際のナポレオンの姿なんて当然見たこともないが、それにしてもホアキン・フェニックスがナポレオンというのは、何かしっくりきた。美形のはずなんだが全くそう見えなくなる三枚目芝居が秀逸。ヴァネッサ・カービーはホアキンの歳下すぎて流石に姉女房のジョセフィーヌには…と思ったが、威厳があるので意外と気にならなかった。

わりと何でもない日常風景から合戦シーンまで、滅茶苦茶リッチな画面には感嘆。ぶっちゃけドラマとしてはかなり薄味なので、それでこれだけの豪華映像ぶん回せる監督は数少ないだろう。何故ナポレオンの時代を描いて薄味なんだ、普通濃い味になるだろ!とは、ちょっと思ったけど笑。
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