そーいちろー

ママと娼婦 4Kデジタルリマスター版のそーいちろーのレビュー・感想・評価

3.5
母のような年上女性マリーと娼婦の如く性に奔放なヴェロニカという二人の女性の狭間で揺れ動くアレクサンドルという青年の青春の軌跡もの。アレクサンドルがおそらく何やっているのかよく分からないヒモで、ブティックを経営するバツイチの美人年上女性マリーの家に居候している。結婚したいほどに好きだった女性に振られ、傷心だったアレクサンドルはカフェで自分を見ていた看護婦の女性ヴェロニカに声をかけて、関係を深めていく。その他、ナチス狂の友人だったりも出てくるんだが、基本的に三時間以上の上映は徹頭徹尾、このなかなか倒錯した三角関係のやりとりを観せられる。正直、長いよね。別に結論もないし、アレクサンドルは「結婚しよう!」とかいうけど、それがどこまで本気なのかも怪しいところ。そして、二人の女もアレクサンドルがクズの優柔不断なヒモ野郎ってことが分かっているのに、好きであることはやめられない。その二人の気持ちがわかっているがゆえに、どっちつかずの態度取ったり、かなり柔軟な恋愛を楽しむアレクサンドル。実際、物語ではほとんど描かれていないんだけど、この物語の背景には五月革命による挫折の記憶があり(おそらくだけど、アレクサンドルも政治活動に参加する学生だった?)、アレクサンドルを冒頭で振る女性が中絶を手助けした医師と関係を持ち、アレクサンドルを振った、というのはただ単純な話でなく、当時のフランスは人口中絶が法的に禁止されているから、より一層そのことに対する風当たりがきつかったことや、それゆえにその執刀医である医師と患者の関係がひとかたならぬものになるのは容易に想像できるが故の関係である、という事も予測できる。こういうことがあるから、物語は終始、どことなく暗い。68年以降の挫折の物語、ということでいえば当時の日本なんかでもよくあった物語類型のひとつと言える。それをひたすらヌーヴェルヴァーグ的、というかほぼゴダール的な描き方で描くから、正直3時間以上、ひたすら男女の恋愛の堂々巡りを、ただそのまま観せられていく感じで、これこそがまさに映画的時間であるのだとも言えるのだが、思春期を過ぎてしまった人間が観ると、まぁ分かるんだけど…という感じにはなってしまう。何やってるんだかよく分からないアレクサンドルという人物造形は大好きだし、女性達の造形も魅力的なんだけど、つくづく人の恋愛ってその渦中にないものたちにとっては切実さも何も伝わらず、滑稽に映るものなんだなぁ、と思ったりした。母性なのか性的魅力なのか、落ち着きか若さか、的な感じでもなく、そういうもの全てを含めてモテる男、アレクサンドルも大変なんだなと、とか恋愛のままならなさみたいなのをひたすら突きつけられる作品。10代後半ぐらいに観て、5年毎とかに観直して、その時々の自分の感情を確認するような作品だった。
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