MotelCalifornia

市子のMotelCaliforniaのレビュー・感想・評価

市子(2023年製作の映画)
4.2
とてもよかった。
…だけでは言い表せないけど、何を書いてもネタバレになるので何も書けない笑

幸せに暮らしていた男女だったが、プロポーズの翌日に彼女が忽然と姿を消し、警察が彼の家に来るところから話は始まる。彼氏と警察は消えた市子を探し始めるが…。

プロットだけを見ると、去年の『さがす』『ある男』と類似している(←どちらも去年の個人的五指に入る傑作)が、本作は彼女=市子を追う旅のスパンが非常に長い。市子の彼氏、若葉竜也演じる長谷川は、市子とは誰なのかを求めて、彼女の生い立ちにまで遡って迫ることになる。

若葉竜也、宇野祥平、中田青渚、中村ゆり、、と、ここ1〜2年の日本映画で見かけて、個人的に「あー、この人いいな」って思っていた俳優たちが見事に勢揃いしており、それぞれの演技が素晴らしく、キャスティングディレクター、あるいは監督のチョイスが抜群!だと思った。短い尺しか出ない人もそうじゃない人も、実在する人間として画面の中で生きていた。
当然、市子役の杉咲花はとんでもない。朝ドラ仕込みの関西弁はお手のものだったのはもちろんのこと、高校生から20代後半の現在までをまったく自然に演じていたのも印象的だった。年齢不詳のひと言では片付けられないリアリティ。
その意味では、数シーンのみの登場だったものの吉田キキを演じた中田青渚も、ワンカットで10数年をジャンプしても、ああ、あの苦学生がいまはこんなキレイな大人になって、、っていうのを見事に演じていた。彼女の関西弁による台詞回しの煌めきは『街の上で』で実証済み。

本作のような立場の人物を題材にしたとき、どうしても聖人的なキャラクターに設定しがちだが、劇中でみんなが市子を「悪魔」と呼ぶのも、さもありなんと思えてしまうくらいに複雑かつ深みのある人物造形にしているのが、とてもとても良かった。すべてを映像化せず、核心部分は観客の想像に任せているのがいい。え?っていうタイミングで映画が幕を下ろすことに象徴されている通り、観客にいろいろと考えさせるよう仕向けている監督の一貫した意図があり、持ち帰る宿題は大きかった。しばらく放心した。
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