ごんす

市子のごんすのネタバレレビュー・内容・結末

市子(2023年製作の映画)
4.6

このレビューはネタバレを含みます

自分の大好きなジャンルの一つ失踪した人を探す映画。
プロポーズされた翌日に姿を消した市子と彼女に関わってきた人々の視点で映画が進む。
プロットは『さがす』に似ていると思ったけれど本作はより人物に強烈に迫る演出のように感じた。

家庭環境や過去の出来事によってアイデンティティを確立できないことに悩む人物を描くのは戸田監督の過去作『名前』とも通ずるものがある。
普通に生きたいというのがズシンと響く。

市子のような人は実際にも存在するわけで描き方としてどうなのかというのは色んな意見があると思う。
自分は市子をかわいそうな人として描いていないように感じて凄く良かった。

ストレートに泣かされた後に「あー良い映画だった」と帰らせない所がこの映画の誠実な所だと思う。

もっと泣かせることもできるし、法から溢れ落ちてしまう者を問題提起したインチキ社会派エンタメにすればお客は呼びやすかっただろうけどそれをやらない、やってたまるかという意思を感じる。

自分の人生を生きたいと願う者にとって過剰に誰かから守ってもらうことを望んではいない。
だからこそ恩人だろうが切らなければいけない時は切るし、ケーキ屋をやろうと言われ喜ぶエピソードに象徴されるように何気ない人からの何気ない言葉を大事に思うのも納得。
市子は倫理に反するようなことをしたが普通に生きることを絶対に諦めない。
市子が愛されるか憎まれるのかは観客によるが作り手は市子の生を強く肯定しているように思う。

癖の強い役を沢山やっている若葉竜也が本作では観客とほぼ同じ情報量しか持っていない等身大の青年といった役。
ただ観客と違うのが彼は市子との積み上げてきた時間を持っているということ。
そして真相を知った時の彼のリアクションがこちらよりも当然大きい。
彼が号泣する所は観ていて泣いてしまった。

序盤プロポーズされた市子が涙を流していたシーンの感じ方がまるで違うものになっているし、写真一つとっても受けとる情報量は多い。
市子がお祭りで浴衣を着ている女の子を見てぼそっという「浴衣可愛いな」という台詞など脚本もとても良かった。

杉咲花の代表作になったのは間違いないと思うしこの役を演じた後メンタルはどうやって普段の自分に戻すのだろうと不思議に思った。
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