ayapan

市子のayapanのネタバレレビュー・内容・結末

市子(2023年製作の映画)
4.6

このレビューはネタバレを含みます

日本には無戸籍の人が約1万人ほどいると言われているそうで。
その理由のほとんどが、「離婚後300日問題」によるものとのことで、この映画の市子と同じ。

身近に感じられない問題だったけれど、実は私の周りにも、市子のような人がいたんじゃないかと思える。
それくらい、この映画の中の市子をリアルに感じた。
儚くて危うい存在なんだけど、すごく「生きている」感じがした。
それは、夏の風景の中で、じっとりと汗をかいている市子。
ゆっくり味わうようにシチュー、ケーキ、焼きそばを食べる市子。
隠されて、隠れて生きている市子だけど、ちゃんと存在している、生きているんだっていう、とても切ない感情が湧いてきた。

ただ普通に生きていたいだけの市子にとって、長谷川君といた時間は慎ましくも幸せだったはず。

クーラーもない部屋での介護。
妹を殺めたあとに、母親から言われるありがとうの言葉。
衝撃的だけれど、市子の身になれば情状酌量の余地があると思える。

妹の枕元から眺める壁に大きく描かれた虹。
蝉の声、蝉の一生、夏の空、夏の雲、すべてを洗い流してくれる荒波。

これらの演出が、市子の人生と重なり合って、決して押しつけがましくないレベルのメッセージも感じる。
印象的な演出が本当に多く、映画としてとても引き込まれる作品でした。

2024年39本目
ayapan

ayapan