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市子のfilmtravelerのレビュー・感想・評価

市子(2023年製作の映画)
4.9
戸田 彬弘(とだ あきひろ)
杉咲花

無戸籍
離婚後300日以内に生まれた子供は元夫との間の子どもの戸籍となる。しかし、それを避けるために、母親が出生届を提出しないケースがあり、無戸籍者が存在するという問題

月子、小泉、北、自殺志願者の4名を殺害した市子。最後の2人は極めて計画的で巧妙で卑劣。長谷川がこれ以上関わると彼もその毒牙にかかるかもしれない。無戸籍者として生き、自分のアイデンティティを模索し続け、不安から逃げ続けてきた市子。殺人の動機はただただ普通に生きたいという健気な思い。

万引きしたたまごっちを渡そうとするシーンが悲しい。貧困家庭を憐れみから助けようとする行為が市子にとって重荷となり、軽犯罪へと向かわせる。しかも、その行為を謗られるという悪循環。幸せになりたい、なれるかもというタイミングでいつも幸せが彼女から逃げてゆく。それは彼女の境遇ゆえのことか、彼女の意思なのか。
自分を救いたいと言ってくれた北さえも殺してしまう彼女は本当に悪魔なのか、思えば北から悪魔呼ばわりされたときに気持ちが途切れたのか、憐れみが鬱陶しいのか。

母親のありがとうという言葉は映画史上もっともおぞましくも悲しいセリフ。