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ある男のfilmtravelerのレビュー・感想・評価

ある男(2022年製作の映画)
4.8
石川慶(蜜蜂と遠雷)
妻夫木聡、安藤サクラ

ルネ・マグリット《不許複製》1937年

安藤サクラが涙するシーンで始まる

変わりたいと願う者
過去を消したいと思っても、過去はいつも自分にまとわりつき、いつも自分を苦しめ続ける。そして、未来永劫に渡って過去は自分を許してはくれない。それでもそこから逃れたいという思いから、人は誰かと過去を入れ替えたいと願う。そこになりすましという現象が生まれる。そこに需要がある限り仲介ビジネスが生まれる。

変わらされる者
息子ゆうとの苗字が米田→武田→谷口→武田と変わる中で、大人の事情により揺れ動く少年の心。
しかも、谷口として生きた時間が実は谷口ではなかったと知ったときの動揺と不安。僕、次、誰になればいいの?という疑問を親に投げかける。

人は変われるのか
犯罪者は変わらないという思想の元、国家は死刑を執行し続ける。ある団体は人は変われるという思想に基づき死刑廃止を訴える。
死刑囚の描く絵から何を読み取るのか。

自分を乗っ取られた者
自分ではない者が自分の名を借り、なりすましでフェイスブックに情報発信している。

在日は何世になれば在日と呼ばれなくなるのか。誰かを非難することで自分の身を正義の側に置くという行為は、子供が意味もなく怪獣をやっつけている行為と重なって見える。

人は目の前にいる誰かが誰なのかを知りたがる。しかし、それは目の前にいる人の今目に見えている姿で十分なのかもしれない。自分にとってのその人以上の情報は果たして必要なのだろうか。ただのある男、ただのある女になれたら人はどんなに楽だろう。
情報は人を惑わせる。

ラストは色んな終わらせ方あったはずだが、そう来るとは。妻夫木聡も高級ワインのような弁護士というラベリングを自ら破り、ある男になってみたかったのかもしれない。
柄本明がレクター教授
子役 坂元 愛登(まなと)名演