このレビューはネタバレを含みます
日本の戸籍制度の矛盾点とその犠牲者を描いた社会派の側面と、ノワール的なミステリーとしての側面を、いかにも邦画らしい湿度の高い画面で見せる試みには、拍手を送りたい。
戸籍制度の問題とは関係なく、今の日本には、育った環境によって自己の主体性がなくなってしまい、苦しんでいる若い人がたくさんいる。そういう人たちがこの映画の己の主体性と自立のために手段を選ばずに生きていく市子を見て元気をもらい、生きる希望を抱けるなら、それに越したことはないないと思う。
プロポーズされた杉咲花の笑いながら涙を見せる姿は、なかなかできる演技ではない。何がすごいってこの人は、全く力まずにそれをやって見せてしまうこと。本当にここ最近の若手の中でも突出していると思う。
市子の、一見すると普通っぽくて何を考えているかわからない様も、ものすごく納得した。普通っぽく穏やかに振舞っている人ほど、実は人には言えない業を背負っているものだ。周りの人間に私のことなんか分かってたまるか、という人は、たくさんいる。そういう意味でも、凄くリアルで良かった。
ただ、それを差し引いても、いくらなんでもファム・ファタール感がなさすぎるのがこの映画の問題点なのかも。まあ、俺の考えるファム・ファタール像が古臭いのは事実だけども、ちと杉咲花の容貌が幼くて。。。
あと、なんの前情報もなく観た時に初見でラストの意味を理解できるかといわれると、ちと難しいかもしれない。その辺、曖昧にしなくても良かったのかもね。
良くも悪くも、令和の邦画って感じ。せめて現実の杉咲花と若葉竜也には、幸せになってほしい。