馬刺し

悪は存在しないの馬刺しのレビュー・感想・評価

悪は存在しない(2023年製作の映画)
4.6
大大好きな監督の最新作!
すごい作品を見てしまった。。

今回の作品はめちゃめちゃ洋風。フランス映画とかそういう類。なので結構静かめです。
セリフと思わせない濱口節な会話劇、相変わらず炸裂してました。上司と部下との車内での会話とか、リアルすぎて本当に盗み聞きしてるような気持ちになる。
独特なカメラワークや自然の偶然さえも演出に加えていく、、これはすごい。


17:00のチャイムの音。夕焼けと共に暗くなる林に抱く不安感や孤独感。懐かしくノスタルジーな気持ちがこの映画を見て蘇る。
自然と生きる人たちと都会で生きる人たち。衣装の色がオレンジとブルーで反対色になっているところとか良い。

シャンタルアケルマンの映画、「ブリュッセル通り」を思わせる伏線回収。美しい。
ひとつひとつの描写が丁寧に切り取られていて、その演出がじわじわと効いてくるのが面白い。そしてその描写の中に想いを馳せることのできる余裕があって良い。

会議場でのシーン。区長の言葉は全人類に聞いてほしい。そんな言葉でした。
終わった後に誰かと話したくなるそんな映画です。


ここからはネタバレ注意⚠️




最後のシーン。いろんな解釈があると思いますが。
ぼくなりの幾つかの解釈を備忘録として。


①結局人間は自然を破壊している、その代償を誰かが払わなければならない。
今回の場合は破壊=狩猟、そして手負になったシカは花を襲った。
都会の人間はそれを見て思うだろう。シカを排除するべきだと。でもそれは違う。人がしたことが自然を通して人に返ってきているだけであり、それは自然の摂理である。それを排除することは自然をさらに破壊することと同義である。だから彼は高橋を襲った。

②花とシカが向き合った時、そこで声をかけて仕舞えば、花は後ろを振り返る、その隙に襲われる。そのことを察した主人公は咄嗟に高橋の首を絞めた。そこに殺意さえ感じられたのは「お前らが来なければ、花を迎えに行けて、こんなことにはならなかった」という怒りも感じられるし、妻と娘を亡くしてしまうことへの予感への絶望さえも感じられる。

主人公が最後足を止めたのは花がもう助からないことを悟ったからなのであろう。自然は理不尽のように思えるが、そうではなく、因果応報で、無情なのである。

手負のシカに寄り添い、手当てをしようとしていた花のやさしさがなんとも悲しい。
あとで代償を払うのは今の世代ではなく、後の何も知らない子供たちだ。
馬刺し

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