ナントカカントカ1世

悪は存在しないのナントカカントカ1世のネタバレレビュー・内容・結末

悪は存在しない(2023年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

相変わらず会話シーンの謎の吸引力。会話のない人の動作や自然だけを映すシーンはやや退屈。退屈というかちょっと長い。
106分の内容ではない気が。

会話のシーンになると目が冴える不思議。
まあまあ楽しんで観てたんだけどねえ、唐突に突き放されたラストに頭を抱える。マネージャーの、1日農業体験くらいで「田舎暮らしって良いね」とか言いそうな浅薄さにイライラしてたから、こいつが受け入れられる展開は嫌だなとか思ってたけど、飛び越えてきたね。

ラストの解釈にも繋がる作品のテーマは、作中にも補助線はたくさんあったし、自分の中に既にあるものをそのまま当てはめれば、それっぽい解釈ができるけど、そんな閉じた思考で良いのかしら。

人間と自然を含む世界の調和のルールに従う側と、調和のルールを理解せず従わない側が存在する。
調和のルールは、上から下に流れるエコシステム(というか、下から上に戻っていく循環のシステムだと思う)の中で、全体のバランスを取るために求められる振る舞い。
上にいる人間が振る舞いを間違えてバランスを崩せば、下から突き上げられる。善悪の話ではなくそういうシステムの話。

事務所側は、感情的にならず合理的に考えれば、金勘定で双方にwin-winだと説得しにかかる。
自称現実主義者が語るような商業主義規範が明確に誤りなのは、彼らは、金勘定だけを変数に加えて方程式を解こうとしているが、それは経済学の限定的な仮想モデルでしかなく、現実に存在するあの土地の歴史やあり方(たぶん部分的に資本主義社会とは異なる互恵的利他主義社会)、人間の感情という変数を無視してるし、さらに言えば、「鹿」(自然)という変数も無視してる。方程式を簡単にすればバカでも「合理的に」解を求められるようになるが、これでは、人間と自然を含む世界の調和のルールは守られない。
鹿の通り道でも鹿が寄りつかないなら問題ないのではという事務所側二人のセリフが決定的だった。

ラストはそういう帰結であって、要するにシステム上起こり得る悪意なき防御反応のように見える。手負いの鹿が攻撃的な行動を起こすのと同じ。

それがなぜあのタイミングなのかはわかんね。防御反応の対比構造(鹿から花、巧からマネ)を重ねているとか、人間的な思考では合理的に説明できない感じのほうがシステム的機能っぽいとか、メタ的になら言えることはあるかな。あと、マユズミも手を怪我してる点で既に防御反応をくらってる。

とりあえず、「悪は存在しない」が、正義の反対はまた別の正義みたいな、つまらない相対主義に陥ってるだけの内容ではなくて良かった。

石橋英子の音楽付きで、巧が延々と薪を割って水汲みするだけの長時間作業用orヒーリング用BGM動画が欲しい。