モンティニーの狼男爵

悪は存在しないのモンティニーの狼男爵のレビュー・感想・評価

悪は存在しない(2023年製作の映画)
4.8
物語としては至って単純だが、あらゆる解釈を残してくれる映画だった。

実際に世の中で起きていること、を、なにかに振り替えて考えた時、他人事ではない渦中にも自分がいるのだと気付く。会話や人物背景の中にある小さな取っ掛りに触れた瞬間、どっと溢れ出す“何か”が、普遍的であったのだという衝撃。一種の快楽だった。

描かれていない余白を勝手に黒く塗り潰しておいて、描かれているものしか私たちは知り得ないということに慣れてしまったのか、二元論でしか対話すらままならないのか。タイパのせいだと言うならくそ喰らえだな。

映像と編集の素晴らしさ。映画的な遊び心満載だったのもそうだし、同時に、写実的なありのままと言うか、ただそこに“在る”ことがこんなにも不動な事実なのかと思った。それこそ善悪の範疇を超越してた。
音楽と映像の溶け合い具合もすごく綺麗だった。あと、『ハッピーアワー』に出てた人がいっぱい出られててわぉ!と思った。

スコアはずっと観たかった『親密さ』と一緒に再鑑賞してからつーけよっと。



…こっからは本作の話とはズレるのだが、
『偶然と想像』で銀熊獲って、『ドライブ・マイ・カー』でカンヌの脚本とアカデミー国際長編獲って、本作で銀獅子獲って、、
日本人で黒澤明以来らしい三大国際映画祭+アカデミーで賞を授与された記念的作品の本作が、公開規模少な過ぎでは?とその事ばかり考えている。
濱口監督がミニシアター・エイド基金の発起人でもあるし、カツカツのミニシアターに集客を稼がせようってことなのかもしれないなと思った(監督とかでもそんなこと可能なのかな)。それ自体にはひとつの意義もあろうが、映画業界、というか国は、映画文化を守る気概があるのであれば、この判断を、「こんなことでもしなければならないような状態に現在進行形でなっている」という一つの警鐘と捉えるべきなのではなかろうか。あ、想像ですけど。愚痴です、言うところ無いんでm(_ _)m