モンティニーの狼男爵

人間の境界のモンティニーの狼男爵のレビュー・感想・評価

人間の境界(2023年製作の映画)
4.9
英題である『GREEN BORDER』は、“森林の中に人為的に引かれた直線の国境を指している。〜ポーランド語の辞書には「緑の国境を越える」が半世紀以上前から熟語として登録されており、「政府の許可なく非合法に越境する」ことと説明されている。”(HPより引用)

戦争や国ぐるみの迫害が起きると、殺されないために必ず亡命者が出てくる。しかし、国と国との境目がある限り、その土地で抱えられる人口にも限度がある、らしい。全てに正当性がある訳では無いと私は感じてしまうが、その限度とやらが優先された時、「難民」が発生すると理解している。

本作は「難民」を扱った映画の中でも、プッシュバック(押し戻し)に焦点が当てられる。
簡単に言うと、受け入れ拒否である。生きる為に亡命を試みた人が、その国境の狭間で、まるでボールのように蹴り合われる。
なぜこんなことが“起きている”かというと、ベラルーシ(親露側)がEUに対して、何万という難民を送り込むことによって、政治的に、社会的な混乱を誘発させてやろうという策略。ポーランドはこれを防ぐ為に、国境警備隊の対応を強化、緊急事態宣言と言い立てて非合法の越境箇所を立入禁止区域に設定し、亡命者に対して、人ならざる行為で追い払う。
「奴らはテロリストで小児性愛者だ」と警備隊に刷り込ませ、有刺鉄線をくぐらせて、渇き切った彼らにガラス片の入った水筒を投げ入れる。
『人間の境界』。人として生きる為の越境でもあり、人が人で失くなる一線でもあった。

芸術とは、言葉では足りない、もしくは言い表せない質量の感情を伝えるための表現だと思っている。音楽にしろ、絵画にしろ、文学にしろ、音色や色彩や構図や物語を使ってその感情を発信するための方法の一つであると。
本作を観て、「告発」という観点における映画芸術とはやはりこういうものなのだと再認識した。
監督さんはポーランドの巨匠と言われているらしく、この「告発」のために24日間という急ピッチで撮影した。そこには妨害や攻撃を避けるための目的があった。フィクションであるから、史実に基づく物語、が付く系の伝記映画になるかと思うが、今まさに起きているのだから、なんとも言えぬ気持ちになった。
ただ、本作でもその時の常識を覆す口火を切ったのは若者であり、彼らを守るのが大人であり、彼らを諭すのが老人であり、人としての生も循環しなければならないのであれば、私はなんとも言えぬ場合じゃないだろうと、背中を押された気分だ。