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悪は存在しないのmat9215のレビュー・感想・評価

悪は存在しない(2023年製作の映画)
4.0
冬の針葉樹を真下からトラッキングで捉える冒頭は、本作が音楽家との共同制作から始まったことを実感させる。丸太を薪に裁断していく場面では、チェーンソーが当てられた丸太が台から落ちるタイミングや、輪切りにされた丸太を斧で小気味よく切り裂いてくさまに見惚れる。このように丹念に描かれる薪割りや水汲みは、芸能事務所の社員二人を含めて再現されることになる。迎えに行った娘が父親の到着を待たずに一人で森に入ることも、芸能事務所の社員二人を伴って再現される。高地の森は木々が間隔をおいて立ち並び、下草はまばらだ。1回目に娘が森に入ったとき、娘を探す男をカメラがトラッキングで追うと、視界がいったん草むらで遮られたあと男が娘を肩車して同じ方向に進む様が捉えられる。住民が感情的なようでいてじつは理を問う説明会、芸能事務所の社長やコンサルのクズっぷり、芸能事務所社員二人の車中の会話といった人間の描写も面白い。締めくくりはやはり森だ。湖上で鹿と対峙する娘、そこに向かおうとする芸能事務所社員を羽交い締めにする男、そして、また針葉樹が仰角で捉えられる。
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